『ほころび』
なんでもない日常は 真綿のようだ 胸がきゅっと締めつけられて 夜の深い場所でただ一人膝を抱えている 世界はまだ終わりません 朝は必ず来るでしょう
優しさが窮屈になったらどこへいけばいい?
海や空が『あなたは大丈夫だから』と言ったら なにを信じればいい? 堤防に立つのは難しくってすぐに脚がよろけてしまうのです
『嘘の無い世界』
愛が綻んで平和は止めどなく流れる 群青色のこの部屋は嘘の無い世界かも知れない 少なくともたった今5分前後は 部屋の壁紙は偽り 触れたら剥がれてしまいそうだ 脆い、なんて脆いんだろう 私はそれを抱きしめよう いいこいいこしてあげよう 空気が澱むその前に この偽りとこの壁を 愛と平和のパテで埋める
『過去形』
夜と霧、古びた日記は未だ血の涙に溺れて過去形になれないでいる 少女と老婆は交錯し、今やどちらかわからない 大抵の事が過ぎ去っている ポプラの木はもう無いし 草原は凛々しさを失った それでも希望を信じる私は過去を噛み締め 暮らしを続ける
ただ静かに静かに 今でも誰か一人を探してる
『価値観』
お金が欲しい 買えるものを買えるだけ買う
ゆりかごから墓場まで買えるだけ買う
感情も感情の揺らぎでさえも買う お金でできることは全てする そして虚無が来る 見えない渦に巻き込まれて 棒人間のまま立ち尽くす それでも考える余地がある 目の前は広大な大地だ 岩間に咲く小さな花を見つめる それは生まれたての価値観だ 大きな欠伸をする 値札の無い大きな欠伸を
『月夜のカラクリ』
美しい月夜 ハウスワインに広がる溜息の渦
この夜空にも仕掛けがある イリュージョン!と自慢気に髭団長がやってくる あゝ、ゼンマイじかけの夜だ! 不思議なことや幽霊騒ぎも全部僕の仕業なんだ
不恰好な星々は帰宅する それぞれの役割りを果たし
て帰宅する 宇宙史には残らない特別な夜だ!