5「誇らしさ」
僕のゆういつの誇らしさを感じることは、妹のことだ。
妹は本当に可愛い。親も溺愛していた。
それに比べ、僕は誇らしさが何もない。
勉強も運動も下の中。親は僕には興味がない。
でも、これで良いんだ。僕は妹の引き立て役として生きていく。
そうして、親の態度は耐えてきた。
「行ってらっしゃい」今日も妹を見送る。友達と遊びに行くらしい。
今日も帰ってくるのは遅くなるのだろう。
まあ、気長に待とう。
妹は帰って来なかった。交通事故だ。
車に轢かれ、可愛い顔がぐちゃぐちゃだった。
泣きたくても泣けなかった。さっきまで普通に生きていたのに、、、
妹が死んだ。誇りがなくなった。もう僕にはなんの価値もない。
そして、瞬く間に親の態度が酷くなった。
「あんたが死ねばよかったのに」「お前のせいで」
口を開けばそんなことばかり。
僕のせいじゃないのに。、、、いや、僕のせい?
あの時、声をかけていたら。あの時、送り届けていたら。こんな事にはならなかったのに。
「僕のせいだ。罪を償うよ。また兄弟になろうね。」
独り言を呟きながら椅子から足を離す。
男は宙に浮く。幸せそうな顔をしながら。
4「夜の海」
俺には習慣がある。夜の海で人魚の女の子と会うことだ。
出会いは窓から見える影を見に行き、人魚の女の子がザバッ、と海から上がって来た時だった。
人魚がいることには疑問を抱かなかった。この村には第第伝えられている物語があるから。
人魚と式を上げたものは幸せになる。そんな言い伝えだ。
どうしてもあの子が欲しい。そう思ってからは早かった。
あの子は、人は怖いと思い込みがあったらしく、俺が優しく接してあげることでギャップ萌えらしき状態になっていた。
好きだと詰め寄り、親密な関係になった。そしてプロポーズのときが来た。
「君と一緒になりたいんだ。君が良ければ、式をあげさせてください。」
彼女は驚いたようだが、照れながら、喜んで、と返してくれた。
式の日になった。彼女が水槽で運び込まれる。
そこには、村の一族と人数分の空の食器があった。
彼女は結婚式を思い描いていただろう。だが、ちがう。
今日行われるのは、「人魚の解体ショー」だ。
彼女が声にならない悲鳴を上げながら連れ去られる。
皆の注目が彼女に集まる。
ダン!
この村に伝わる昔話は、人魚を解体して食べる、「式」を上げると寿命が伸び、「幸せになる」というものだ。
今日という日を、村のものは楽しみに待っていた。顔が嬉しさで歪む。
男が、恋人だったはずの人魚の肉を口に運ぶ。
「やっぱ、苦労したかいあって美味いなあ、、、やっと君と一緒になれるよ」
3「自転車に乗って」
、、、、、よく寝た。、、、って、今何時!?
行ってきまーす!!そう叫んで自転車に乗り込む。
あと10分で行かないと遅刻してしまう、そう思いながら全力でペダルを踏む。
こういう日には曲がり角で食パン咥えた女の子とぶつかるんだよな、、、って、そんなこと考えている場合ではない。
曲がり角を曲がろうと思いっきり踏み込む。
ドン!!
目が覚めると病室に居た。右手を動かそうとするが動かない。
目が覚めましたか。そうナースさんに言われ、事情を説明された。
俺はあの曲がり角で車とぶつかり、右手の骨折をした事。
あの事故からもう既に3日経っていたこと。
未だに信じられなかった。
次からは余裕を持って起きよう。そう決意した。
俺ぶつかった時、一瞬漫画でよくあるシーンのあれかと思ったんですけどねー。
ナースさんに話してみる。
は?そんなことあるわけ無いでしょ?安静にしといて下さい。
、、、現実は冷たい。
2「心の健康」
今日も何も無い一日が始まる。
お母さん、お腹痛い。僕が言うと、ほんとに?と疑われる。
本当に痛いだけなのに、とぼんやり思う。
今日も学校は休んでおくね。呆れたような声で言われる。
僕は一週間学校を休んでいる。今は、”心の休憩期間”らしい。
”休憩”がいつか終わると思うとぞくぞくする。
あいつらのいる教室に戻れるわけ無い。
学校に戻ったらまたいじめられる。叩かれて蔑まれる。
もういっそ、ずっと休憩になればいいのに。
今日も君と会う。
君とはもう10年の付き合いだね。そうつぶやく。
だが返事は帰って来ない。
君と僕の奏でる音楽は最高なんだ。ほら、前はニュースにもなったよね。
僕たちに才能がないんじゃない、世間が僕たちのことを分かって無いだけなんだ。
だから、、、諦めたくないよ、、、君との夢を、、、
帰ってきてよ、、、
あの日、ステージ上でセットが崩れ、僕の相棒は居なくなった。
その時の思いを歌に綴ると、瞬く間にヒットした。
世の中は非情だよ。君がいなかったら何もかも意味がないのに。
ヒットするという夢は叶えたけど、心は埋まらない。
僕はなぜ生き残ってしまったんだろう。
1「君の奏でる音楽」