今日は休日だから、家でひとり。社会のしがらみから解放されて嬉しいはずなのに、何故か気分が浮かない。したいことを思い浮かべてみる。……ない。わたしには中身がないことを思い出した。いつも中身を他人で埋めていることを。
ひとりが嫌いだったんだった。
#喪失感
あなたがトランペットを吹く。その撫でやかな音は、さながら木管楽器のような音色でわたしを包んでくれる。2人っきりの部屋で、ただ1人あなたの音を鑑賞する。あなたが吹く沢山の曲たちが、あなたの人生における音楽が何かというのを見せてくれる。あなたという人をさらに理解することができる。高音を出すときに難しいフレーズを吹くときに、涼しい顔をしようとしているのも、なんだか愛おしくてさらに聞き入ってしまう。観客が一人のコンサートは、もうすぐ終わる。
#世界に一つだけ
肩どうしが触れ合う。それだけで心拍数が増える。向こうはすぐに謝ってくれるけれど、わたしはもっともっと当たりたいと思ってしまう。少しおかしいのかな? でもそうしてまで彼に触れたいのは本当のこと。たった一言「付き合ってください」が言えて了承されたなら、もっと回数は増えるしもっと踏み込んだことだってできるのだけれど、やっぱり拒否されるのが怖い。それに、これ以上彼と接してしまったら、わたしは爆散してしまう気がする。少しずつ心臓を慣らしていかないと。とりあえず、おはようを言えるようにならないといけない。
#胸の鼓動
あのね! 今日〇〇ちゃんと一緒に帰ったんだ! あんまり話したことなかったんだけどね、思ってたより面白い子でね、話してたらあっという間に駅着いちゃったんだ! それでね、〇〇くんって勉強得意なの?って聞かれたから、ついそうだよ!って嘘ついちゃったけど、すっごく褒めてくれたから、この嘘も無駄じゃなかったんだなって思うんだ! へへへ、明日も一緒に帰れるといいな!
〇〇くんってどんな人なんだろうな。そう思って一緒に帰ろって話しかけた。いっつも職場でおちゃらけている彼が、何を考えているんだろうって。別に好きとかじゃ無いんだけどね。それで、話してく内に思ったんだ。これ中身詰まってないなって。相手のことを考えずにおちゃらけている感じが、すごく馬鹿に感じた。どうしてこの職場につけたのだろうって思うくらいに。どうやってあの頭で仕事をしているって思うくらいに。興味深いっていう点では面白かったけれど、もう2人で帰りたいとは思わないかな。
#踊るように
貝合わせ。所謂貝殻で行う神経衰弱だ。平安時代から行われているこの遊びを、ふとしてみたくなった。
蛤を剥ぐ。中身が抵抗してくるけれど、力の差で捻じ伏せた。中身は美味しくいただいて、外身を残しておく。これを満足するまで繰り返す。しっかり洗ってよく乾かした。そして、本来は貝殻の内側に絵が描かれているらしい。けれどわたしは不器用なので、和歌を書くことにした。
作っていくうちに、貴族の気分になっていくように感じる。貴族は貝合わせの貝は作らないはずなのに、どうしてこんなにも雅やかな気持ちになるのだろう? 知らず知らずのうちに感情移入しているのだろうか、それとも、
あ! すっかり頭から抜け落ちていたが、貝合わせは一人ではできないではないか! これが貴族とわたしの違いであろうかと、つくづく感じた。
#貝殻