【魔法の飴ちゃん】
「ほれ、やる」
ふいにそう言って口の中に放られた、
「甘…」
キャンディ。
「何、急に」
私がきょとんと口にした言葉に、幼なじみの悠生は、腰を折り、目線を合わせた。
「これはなぁ…魔法の飴ちゃんだ」
「魔法の…飴ちゃん。なんのこっちゃ」
突然の至近距離にときめきを隠せず、思わずのけぞりながら悪態づく。
「溶けねえんだよ、この飴」
「いや、溶けてるし」
「溶けないことにしとけよ」
「は?なんでよ」
可愛くない女。
自分でもそう思う。
男みたいでガサツで、片付けもお母さん任せ。髪の毛のケアも面倒でショートカットにしてることは誰にも言えない秘密。
女の子らしい女の子に憧れ続けて16年。
それこそ魔法でもない限り、私は変わらないんじゃないかとさえ思える。
「魔法の飴…なら、私の事変えてくれ。根っこから全部。自分なんて嫌いだ」
ぽつん、と吐いた言葉。
悲しくなって、涙が沸いた。
「このさ、魔法の飴ちゃんは」
すると悠生は高く飴を頭上に投げ、器用に口でキャッチする。
「溶けない飴。お前みたいじゃん」
「は?」
「変わらずにいろよ」
いつもの糸のような、ふざけた目が真剣なものに変わる。
「何」
「俺、今のお前が好きだ」
トキガトマル。
今、なんて言った?
「自分に自信持て。俺はずっと側にいる!」
真剣な眼差しがヘタッとまたいつもの糸目になって、悠生の手のひらが私の頭を撫でる。
「やめろバカ」
「やめねえーよ」
「ありがとう」
「こちょばゆいからやめれ」
魔法は魔法そのものがすごいんじゃない。
その魔法を使う、魔法使いがすごいんだ。
悠生は私に、「変わらなくていい、魔法」を授けてくれた。
【青い冬】
「クリスマスの過ごし方?」
「うん、どんなクリスマスを過ごすの?」
君と逢いたい。
なんて言いかけて口を噤む。
俺たちはそうさ
大人が見ればきっと「青い」んだ。
チャットで出逢ったふたり。
「恋人」とも言えないのかもしれない。
だけどきっといつか遠距離を謳歌して、
きっといつか文字の壁を越え、君と。
「クリぼっち」
困り果てて眉をひそめると
「私も」
ふふ、っと声を上げて君は笑った。
「じゃあ通話する?」
「うん」
「寝落ちするまでね」
「受けて立つ」
ここから
僕らのメリークリスマスがはじまる。