冬場はあんなに優しく心地よい日差しだったはずなのに、恵みの日差しと思えるほどだったのに。
「あ、あぢぃ……」
七月に入り、梅雨時期となった。
じめじめしていて、晴れている日は少ないので、恵みの日差しに変わりはないはずなのだが。
「湿っぽくて息苦しい……」
蒸された空気は重く、気温はそこまで高くないのに、日差しが肌を焼く。
そういえば、夏本番より今時期の日差しのほうが紫外線が強いと聞いたことがある。
「夏本番……やだなぁ……」
誰に話している訳でもないが、暑くて頭がおかしくなってしまったのか、俺はいつもより多くの独り言を呟いた。
夏の少し前の日差しは、じりじりと俺の肌を焦がしていた。
@ma_su0v0
【日差し】
※微エロ注意
俺の家の隣は、新築の一軒家がある。
つい先日できた真新しい建物で、そこには旦那さん奥さん、小学生高学年くらいのお子さん二人のどこにでもある一家が住んでいる。
俺の部屋のカーテンを開けると、幸か不幸かお隣さんの寝室の様子が見える。
もう子どもとは別の寝室なのだろうか、たまに奥さんと旦那さんの姿しか見えない。
夜はお互いにカーテンを閉めているのでわからないが、昼間はどちらも開けている状態。
夏場も近付き暑いので、高校生の俺は期末テスト期間中で早く家に帰り、窓を開けて勉強をしていた。
するとなにやら、なまめかしい声が聞こえてきた。明らかに、隣の奥さんのものだ。
今日は平日の昼間だというのに、二人とも仕事は休みなのか?
思春期の俺には耐え難い所業。気になって勉強が手につかない。
よく耳を澄ませば声だけじゃない卑猥な音まで聞こえてくるではないか。
窓を明けてプレイをしているとでもいうのか、とんでもない変態だな。
……だめだ、気になる
ガン見する訳ではなく、横目にお隣さんの寝室をみる。
窓越しに見えるのは、俺の知っている旦那さんではない男と、俺の知っているお隣の奥さん。
俺は持っていたペンを落としそうになる。
ーーこれが、世に言う、不倫、というものなのか。
見てはいけないものを見てしまった俺は、激しくどつかれている奥さんにばれないように、そっと窓とカーテンを閉めた。
@ma_su0v0
【窓越しに見えるのは】
気づいた時には、遅かった。
真夜中の暗闇を息を切らしながら走る。
行く場所など決めていない、とにかく逃げなければ。
俺は、ようやっと、彼女の目を盗んで逃げ出した。
最初は、ただ可愛い優しい女の子だと思っていたんだ。でも--
「どこに行くの? かくれんぼ? 鬼ごっこ?」
息をのむ。
俺の目の前に、逃げきろうとしていた相手がいる。
「なん、で……」
思わずそんな言葉が口をついて出た。
「なんで?」
女は、ゆっくりと俺の近くに歩みより、優しく俺の頭を撫でてくれた。
ぼたぼたと脂汗とも冷や汗とも言えぬ汗が俺の頬を伝う。
「私とあなたは、赤い糸で結ばれているからだよ?」
「その赤い糸は……切れたりしない?」
俺の問いに、ふふふ、と、女は笑った。
満月に女の笑顔が妖しく映った。
@ma_su0v0
【赤い糸】
あの大きなもこもことした雲が怖くて
あれに飲み込まれんと走って家路を辿った
もしあの大きな雲に追いつかれてしまったら
たちまち雷雨が降り注ぐ
それはもうトラウマになる程の怖さがある
昔の通な人達はそれを見て
やれ夏だ風流だと囃し立てるが
青空に突然あらわれたあの大きなもこもこ
そんなに良いものだろうかと
私は今も尚あの雲をみては走り出している
@ma_su0v0
【入道雲】
学生時代は、夏がくることを心待ちにしていた。
いや、正確には、夏休みがくることを心待ちにしていた。
バイトでいつもより稼いだり、海に行ったりキャンプしたり、祭りに行ったり、休み終わりの宿題ラストスパートもいい思い出だ。
田舎だったから、うるさいくらい蝉は鳴いてたし日差しはダイレクトにあたるし、かと思えば大空のキャンパスが雲に埋め尽くされてゲリラ豪雨に見まわれたり。
でも今は、夏はただくそ暑いだけの、夏休みもない社会人。
社会の歯車となって、飲食業だからお盆休みもなく馬車馬のように働くだけ。
上京したら、気がついたら蝉の声もとんと聞かなくなったし、大空はビル群の隙間から心ばかしみえるのだが、照り返しで暑さだけは一丁前、もちろんゲリラ豪雨もある。
昔はあんなに楽しみだったはずなのに、どうしてこうも夏のありかたが変わったのかと、せっかくの単休、突然の雨に傘を忘れて途方にくれた昼過ぎの俺だった。
@ma_su0v0
【夏】