寄せては返す波の音
砂に染み入る海水に
靴で駈けては波を避ける
もう一歩だけ、もう一歩だけ、
打ち寄せる白波のギリギリを鬩ぎ合い
もう一歩だけ、もう一歩だけ、
濡れそうで濡れない瀬戸際を綱渡り
もう一歩だけ、もう一歩だけ、
一瞬でも気を緩めればずぶ濡れなのに
もう一歩だけ、もう一歩だけ、
濡れそうで濡れない海水と靴の追い駆けっこ
もう一歩だけ、もう一歩だけ、
気が済むまでは止められない
ーもう一歩だけ、ー
ふと目が覚めると、見知らぬ真っ白な天井
辺りは白い壁、白い床、白い家具、白い寝具
何もかもが真っ白だ
「だ、誰か……
誰か、いないか……?」
ゆっくりと上半身を起こす
人が駆け付ける様子は微塵も感じない
この部屋には、窓がない
周りが気になったので、真っ白なドアを開け
どこまでも白く伸びる廊下に向かって、声をかけた
返事がない
自分の声だけが、無音の空間に反響するだけだった
「だ、誰か……
いたら、返事をしてくれ!」
真っ白な壁伝いに、恐る恐る歩み進んで行く
突然、真っ白なドアに阻まれた
誰もいないなら、もう、開けるしかない……
ドアノブに手を掛け、恐る恐るドアを開ける
隙間から差し込む光り
あまりの眩しさに、一瞬、目が眩んだ
見渡す限りの白い建物、白い道、澄み渡る青空、青々とした木々
見慣れない光景に、息を飲んだ
「ここは、どこなんだ……?」
1歩また1歩と、外に足を踏み出す
見渡す限りの白い街並み
澄み渡る青空と青々とした木々以外は、全てが真っ白だった
「なんて白さだ、目が眩しい
それに、汗が滴るこの暑さ
今は、夏なのか?」
噴き出す汗に、喉も渇く
高い見晴台であろう場所から街並みを見渡すと
街の中央に噴水があることに気付いた
あそこなら、飲み水を確保できそうだ
辺りを見回し、下へ下れそうな階段を探す
駆け寄り、下へ下へと足を急かした
グルグルとかなり長い螺旋階段を、速足で下ってゆく
もしかしたら、かなり高い見晴台にいたのかもしれない
そのくらいに思える高さの階段を、一気に駈け降りた
やっと地上にたどり着いた
コンクリートか?と思えていた道は、真っ白な砂地だった
まさか、土まで真っ白だなんて……
俺は、街の中央に位置する噴水目掛けて、走った
見渡す限りの白い建造物
けど、人1人として姿を見かけることはなかった
なぜ、この街には人が存在しないんだ……?
そんな疑念を抱きながら、感を頼りに噴水目掛けて駆け抜ける
人がいないなら、自力で探すのみ!
いつ、どうやって、たどり着いたのかは分からない
が、見知らぬ街での大冒険も、いいものだなと思えた
「あった!噴水!」
思ったよりも大きな噴水で、見上げるほどの高さだった
まるで貴族の屋敷にでも訪れたかのような感覚に襲われた
恐る恐る近づく
透き通ってる証拠でか、薄い水色の水辺には
キラキラと光り輝く水面が映し出されていた
水に手を浸す
この水は地下から汲み上げられてるのだろうか?
透き通って冷たい感触が、肌に触れた
冷たい!
これなら、暑さに火照った体も、涼めそうだ
噴水によじ登り、服の上から水を被る
体の外から冷えてく感覚が、気持ちよくて堪らない
両手で水を掬い上げ、ゴクゴクと飲み干す
「カンタ!
そこで何やってるの⁉」
母さんの怒鳴る声に、ハッとした
辺りを見回すと、実家のキッチンのシンクの上に立ち
水浸しになりながら突っ立っていた
「こ、これには、訳があって……」
「訳も糞もあるか‼
きちんと片付けなさい!」
「は、はーい……」
まさか、夢を見たまま、家の中で水浴びしてたなんて……
恥ずかしくて、言えるはずもない
けど、楽しい冒険だったな……
と思える出来事だった
まさか、着ていた衣服に、
真っ白な砂がこびりついてたとも知らずに──
ー見知らぬ街ー
時刻は日没
空の雲も青白く染まる頃
外が一瞬、にわかに青白く光り輝いた
「あ、光った」
光ってから約1分後、遥か彼方でゴロゴロゴロと音がした
近いのか遠いのか、距離感がいまいちで、判断がつかない
胸騒ぎがする
「今夜も降るのかな」
ポツリと言葉が漏れる
最近は雨続きで、家の中も湿り気味
そろそろ晴れて欲しいなと思う頃だった
「ここだけでも、晴れるといいけどな」
またポツリと言葉が漏れる
叶わない望みだと分かっていながらも
溜まっていた無念を吐き出すかのように
ポツリ、ポツリと言葉が漏れた
「仕方ないさ、どうせまた降るんだろうけどな」
またピカッと一瞬辺りが青白く光り
約1分後にゴロゴロ、ゴロゴロと空が鳴り響く
心がざわつく──
今夜も涼しく過ごせるのだから、良しとするか……
思いを噛み締めながら、今夜の夕食をとった
ー遠雷ー
窓越しに
アイスクリームを食べようとしたら
羨ましそうに眺めている子供と目があった
一瞬時が止まった
大の大人が
小さな子供を目の前にして
アイスクリームを頬張っていていいものかと
『こっちは暑いんだ
休みの時ぐらい食わせろよ……』
と思ったが
もしも食べる余裕もないくらい
子供が貧しくて
アイスクリームを食べてる人の姿を見ることで
暑さから免れようとしてるのであれば
果たしてそれはいかがなものかと……
「あっ‼」
子供の叫び声と共に
子供の視線の先へと目で追うと
アイスクリームが服にこぼれていた
「あっ‼」
慌てる俺
時は既に遅し
服にベッタリとこびりついたアイスクリームは
拭き落としたくらいでは落ちそうにもなかった
「やれやれ……」
俺は子供の視線に根負けして
ジェスチャーで店の中に来るよう合図した
「おじさん、こぼしちゃったね~
どこ見てたの?」
純粋なキラキラした目で見つめたくるから
言うに言い出せない
「ま、まぁいいから
好きなアイスクリームを頼めよ
食べたかったんだろ?」
ふと何気なく子供に問いかける
「えっ⁉いいの~⁉
おじさん、有難う‼」
キャッキャとはしゃぐ初対面の子供と
席を共にする
ここは深く聞かない方が身のためだろう……
とブラックコーヒーをすすりながら思うのだった
ーこぼれたアイスクリームー
やさしさなんて
あってもなくても同じもの
そんな風に思った時もあったけど
やっぱりやさしさあってこそ
地球は成り立ってると思う
でなければ地球は
戦争なり核爆弾なり
火山なり地球温暖化なりで
とっくに滅んでると思うから
やさしさなんて
甘く見ないで
ーやさしさなんてー