無意味にスマートフォンから垂れ流していた定番の動画サイトから視線をあげる。
ぐぅ、と腹の虫が鳴いた。時刻を見れば短針が12に近づいている。もう時期、日が変わる。
明日の仕事を考えながら、スマートフォンの電源を落として床の上に放り出す。日が変わらなければ仕事に行かなくてもいいのにとくだらないことを考えた。寝なければ明日が来ないのではないかなどと、無駄なあがきをしながら思考を無意味な時間へと捨てている。
いい加減寝ようと、掛布団を頭から被り直した。目を瞑り、チカチカとした残像を追い出そうとする。ウトウトと眠りが誘う。
ぐぅ、ともう一度腹が鳴った。なったのを自覚すれば空腹がぐるぐると駆け巡って吐き気を誘う。寝入りばなに起こされた体は、もう眠れそうにない。
ひとつため息をついて万年床の布団から抜け出した。狭い台所へと足を進める。引き出しを二、三開け閉して目的のものを取り出すと、電気ケトルの電源を入れた。
蓋を開けて、上手くあかない袋に悪戦苦闘しながらかやくをひっくり返す。
かちり、と電源が切れるのを合図に、電気ケトルを手に取った。注ぎ込めば湯気が立ち上って視界をくもらせる。再び半端に開けた蓋を閉じて、抑えるように箸を上に置いた。
かち、かち、と響く秒針が止まることなく1周をする。見れば長針と短針がかさなろうとしていた。
カップラーメンができる頃には、明日へと変わっていることだろう。
『時間よ止まれ』
綺麗な夜景だと、遠くの展望台から、誰か見ているのだろうか。
パソコンの電源を落として僕は大きく伸びをする。残業続きの体は、疲弊からか軋み始めている。
開けっ放しになっていた窓に近寄って、外に視線を投げる。辺りに立ち並ぶ建物は、煌々と明かりがともり、人影がその灯りの中に蠢いている。
美しい夜景も近くで見れば人の営みのひとつにすぎない。
溢れかえる有象無象の明かりのひとつ消えたところで誰が気づくのだろう。
夜景のひとつを今まで彩っていたんだ。帰ってビールのひとつあおってもゆるされるはずだ。
そう僕は独りごちて、電気のスイッチを押した。
『夜景』