君が見た景色
雨の日。
それも、ザーザーと絶え間なく降り続く土砂降り。
黒い雲が空いっぱいに立ち込める薄暗い景色を見て、
心まで湿って沈んでいく。
中々止みそうにない。頑張っても濡れてしまいそうだ。
憂鬱な気分になって、ため息をひとつついた。
仕方なく、面倒臭いが傘を開いた。
その瞬間、抱き抱えた娘が
きらきらとした目で空を仰いだ。
何だろう、とその目線を辿った。
娘は傘が面白かったらしい。
その傘は私が10年前くらいに気に入って買った。
モネの池が描かれた傘で、
傘を広げると、モネの池が空いっぱいに広がった。
そこに、雨が落ちる無数の音がして、
何とも不思議な幻想的な景色に見えた。
見慣れたはずのふとした景色でも、
雨降りの日に下ばかり見ていた私には、
気づくことができない美しさだった。
これからもそんな新しい景色に
この子は出会い続けるんだろう。
その度に私ももう一度
新しい景色に出会わせてもらえるのだろう。
またね
「またね」
こども園に子どもを迎えに行ったら、
先生や友達が子どもに話しかける。
まだ話すことのできない私の娘は、
にこにことしながら、
小さな手をくるくる回す。
彼女特有の“バイバイ“だ。
少し前までは何もできなかったのに、
今ではバイバイができるのか。
と、そんな小さなことでも大きな成長に感じる。
いつか「またね」と言い返せる。
そんな日が来るのが待ち遠しい。
タイミング
“タイミングを逃した“と思うことって、
人生の中でたくさんあると思う。
私ももこれまでそう感じたことが多々あった。
大学4年生の頃に就活が上手くいかず、
仕事に就くことができなかったり、
自分が結婚したいな、と思っていた時期に、
恋人ができなかったりした。
その時は、なんでいつも上手くいかないんだろうと、
モヤモヤと落ち込んでは、やるせない気持ちになった。
でも、結局のところ、
今就いている仕事はとても大好きで、
なんだかんだ結婚して、子供もできて、
過去を振り返ると、
まあ悪くはないタイミングだったのかなぁ、
なんて思えたりするのだから不思議だ。
過去に抱えてた大きな悩みは、
将来、しみじみと懐かしく感じる時がある。
逃したタイミングも多かったけど、
巡ってきてくれたタイミングもたくさんある。
きっと、人生ってそういうものなんだろうな。
虹のはじまりを探して
虹の根元には宝物が埋まっている。
子供の頃にそんなことを聞いたことがあって、
虹を見るたびに心が躍る。
虹がはじまっている場所を探す、
冒険に出かけたくなった。
つい最近、朝のゴミ出しに行こうとしたら、
目の前の空いっぱいに大きな虹がかかっていた。
あまりにも綺麗だったので、
思わず息を呑んだ。
昔と何も変わらない。
今でも虹を見ると、心が弾む。
虹のはじまりには辿り着けないけれど、
宝物を見つけたような、そんな気持ちになる。
涙の跡
悲しいことがあって大泣きした日、
次の日の朝目が真っ赤に腫れていることがある。
必死でメイクで涙の跡を消すのだけど、
それでも、周りから
「何かあった?大丈夫?」と言われることがある。
その時は、
大の大人が泣いたことへの恥ずかしさと、
心配してくれていることの嬉しさとが、
半分半分に混ざり合っている。
人は一人では生きてはいけないから、
誰かに側に来てもらうために、
涙の跡を残すんじゃ無いかな。
たくさん泣いた赤ちゃんの、
涙の跡が残る寝顔を眺めながら、
今度は私が「大丈夫」とこぼしながら、
そっと抱き寄せた。