やっと手に入れられる
ダンジョン降下 階層666層目
長年に渡って求めてきたもの
冒険者として
王族からは何の見返りも貰えずに駆り出され、市街で厄介者扱いされることもあった
でも、3人の仲間と共に楽しかった
飯食って、寝て、戦って、失恋して、慰めて、喧嘩して
ずっとそれでよかった
関わったこともない王も倒した
なのにアイツは仲間を殺した
お前は最弱 野垂れ死ねと
仲間の死を無には返さない
アイツこそ
長年探していた人族が使うと記された聖剣
ワタシも身体がいずれ溶け、無に消える
だが、ワタシは魔族として アイツを 魔王を滅ぼす
何があろうと 絶対に
『この道の先に』
お化けが苦手だった
暗いのが怖かった
自分の部屋にもひとりじゃ行けない
夜が早く終わって欲しかった
絵を描くのが楽しかった
みんなでいるのが心地よかった
今じゃ、真逆の存在
同じ人間って言えるんだろうか
俺は人が色に見える
当たり前だと思っていたが'少し人とは違うらしい
人の頭上、色の丸がある
「今日さぁ、家出る時にー」
お喋りなこいつは黄色に少しグラデーションがかかったような色
「…くあぁ」
さっきから欠伸ばっかしてるのは紺色
「…欠伸ばっかしてないで話聞いてやれよ」
おかんで少し不憫なこいつは………
淡く海を紙に透かしたような色
廊下を走っていく
初めて見た色だった
「お前もなんか言ってや……顔、あかっ!?
この一瞬でなにがっ!?」
下敷きで仰がれる
海が駆けていく光景が眼球にくっついたように離れなくて
湯気はまだ消えそうにない
"好きな色''
雲が落ちる
滝のように
光が少しだけ透けた
穴の中に緩衝材として
俺の中に緩和剤として
入ってきてくれればいいのに
「将来、何してると思う?」
少しだけ涼しい風が流れ出した放課後の教室
溶けたアイスが指に触れるのを阻止しながら友人が尋ねてきた。
手元の"GAME OVER"とかかれたゲーム機にもう一度リトライする。
「無視すんなよ〜」
「うるせーなー、考えた事ねーよ」
服に落ちたコーンの欠片を手で拾いながら「ふーん」と聞いておいたくせに興味がない声を出す。
「俺ね〜 花屋になりたいんだよね〜」
「聞いて欲しかっただけだろ お前」
「せいかーい 小さい頃から好きなんだよね〜」
そんな言葉を聞いて羨ましくなった。
かっこいいと思った。
俺は何も思いつかないから。
BGMも、エフェクトも、必殺技も、リトライもない。
俺はかっこよくない1度きり。
でも、きっと見つかると未来に後回しにし続ける。
また、"GAME OVER"になった画面を見つめる。
「…お前 凄いな 夢決まってて 俺決まってないから」
「別にお前のペースでいいだろ そうじゃなきゃおもんねーじゃん」
「……ほんとお前 かっけえーよ」
「ガチ? 照れるな〜テレテレ」
…焦ってたら何でもおもしろくねーよな。
かっこよくはないけど1度きり。
俺のペースで。
「お前の花屋 毎日通うわ」
「マジ! お客さん あざす!」
"GAME CLEAR"
新たな画面を見てそう決意した。
『未来』