明日からまた平日だぁ……
仕事とかクッソだ~~るい。もうおうち引きこもる。
それができるなら苦労しないんだよなぁ……。
ピンポーンと、突然インターホンが鳴る。
「誰だよ……」
友達はいないし、家族がこっちにくるとは聞いていない。
イライラしながら玄関の扉を開けると、
「誰ですかぁ~?」
『N○Kの集金です。』
「うちテレビないですよ。」
『突然の君の訪問。』
今日、最愛の人に裏切られた。
今日、誰かに罵詈雑言を言われた。
そんな日は、自分が雨の降り注ぐ町の中に一人、佇んでいるように感じる。
『雨に佇む』
『私の日記帳』
廃墟から見つかったこの本の表紙には、『私の日記帳』と書かれていた。
1ページに書かれている内容は、2、3行ほど。
一つ一つの文は、意味をあまり為していない。
~以下は日記の文章~
1日目。(8/1と記載されている)
ここは良いお家だ。
とても良いお家だ。
2日目。
十分にある。
あれは十分にある。
3日目。
外から会話が聞こえてきた。
親が探しているようだ。
4日目。(このページだけ、一部がちぎられた形跡がある。)
も うお うち にいられない。
アノか、た がえ ってく る
裏表紙には、『あのか』と書かれている。7月の終わり頃失踪した子だ。
以降のページは白紙だったはずだ。
『向かい合わせ』
俺は、高校の美術の教師で、今は生徒と個人面談をしている。
『どう思います、こういう絵…』
彼は、俺が特に一目置いている生徒だ。
その本質は、『変人』と思って差し支えない。
そんな彼の描いた絵…今見せられている物だ。
線はぐちゃぐちゃ。色も線からはみ出ていたり、塗れていない所がある。
構図は、人と人が向かい合っているという、とてつもなくシンプルな物だ。
背景は、うねうねした線が原色で描かれている。
「…色塗りが下手クソだ。」
『僕は、上手いとか下手とかどうでもいいんです。』
「何故だ?絵が上手ければ、何でも良いじゃないか。」
彼にとっては、息が詰まるような空間だろう。
『……』
「…………言いたい事はそれだけか?」
『…では、お聞きしますけど。』
「はぁ。」
『先生にとって、『絵を描く』ということは、なんだと思いますか?』
「……質問の意図が読めない。何故聞く。」
『………質問を変えましょう。先生、絵で一番大事なことは、なんだと思いますか?』
「勿論、線の綺麗さや細部まできちんと描く事___」
『違う。』
彼は言葉を遮る。このような事態は、想定外だ。
『……違うんです。』
「待て、どういう事だ。俺は__」
『逆に聞きます。『感情のこもっていない絵』は、綺麗に見えますか?』
「…おい_」
『『描きたくて描いた訳で無い絵』は?』
言葉に詰まりながらも、何とか返答しようとすると、
『……貴方が学校に来て、早々に感じたんです。
貴方は、本当は『絵を描きたい』なんて思っていない。
裏に込められたメッセージでさえ、どうでもいい…そんな感じ。』
「教員には敬語で__」
反論も許されず、
『貴方にとって、絵というのは一体何なんですか?
只、上手いか下手かだけで評価できる世界では無いんです。』
「…………何を言いたい。」
『……貴方は、僕がこの絵に込めた思いも、何も考えていない。
独善的に、絵を判断している。』
『……この絵から、何を感じ取れますか?』
「…何処と無く緊迫した表情だな。背景から考えると、『混乱』か?」
『…こうして見ると、僕たちにそっくりじゃないですか?』
「……ああ。目も微妙に上に寄っていて、三白眼気味になっているな。」
『そういう所までは意識してませんけど。』
「逆に、お前にとって絵を描くというのは、何だ。」
『…『楽しくやる』。それだけです。』
『やるせない気持ち』
あの時、何かできたはずなのに。
あの時、あの子のヒーローになれたはずなのに。
あの時、絶えず笑っていたのに。
どうして……?
『……考えてももう遅い』
「っ!?」
最近、幻聴が酷い。
あの時、命の灯火が消えかけている時も、絶えず笑っていたのに。
僕は命が保証されてる空間でも笑えない。
『お前のせいであの子は死んだんだ、救えたくせに、あの子の苦しみなんて知らないくせに。』
「……」
ふと、あの時の記憶が蘇る。
『ねぇ、最期にさ……。君が自分を許せなくても、生きて…約束、破ったら、全力で恨むから。』
「…僕が自分を許せなくても……か。全て、彼女は見抜いていたんだろうな…。」