約300年前。
世界では無名のセントウィリアムズ島の住人たちは長雨に悩まされており、このままだと島の中央にある湖が氾濫すると予見されていた。
一人の占い師は島に住む者の中に、雨の神に愛された乙女がいる、その乙女を氾濫する湖を鎮める力があると予言した。名指しされたのは、なんてこともない、ただの町娘。よくある絶世の美女だとか、聡明でもないニビだった。
ニビは具体的にどんな風にすればその呪いのような愛を収めることができるのかわからずにいた。
迫る自然災害を恐れ、住民の一人がニビをを襲う。生贄にしようと画策したのだった。
生きたまま手足に枷をかけられ荒れ狂う湖に沈められたニビと共に島は沈んだ。
時代は移り、国を超えまた一人の占い師は予言した。
音楽こそ言語であり、XTU生きる意味でそれが人間の業である。時の独裁者コールマンはこの占い師の予言を自身の治世
3分で眠れると謳っているBGMにお世話になっている。
カーテンの遮光が甘いせいで車の反射光が天井を走る。目をつむると心臓の音が気になってしまうから、適当な瞬きを繰り返しながら睡魔が来るのを待っている。
イヤホンは右耳だけ。横寝の癖が抜けなくて左側を下にして寝る。
痛かったのは一瞬だけだった。
指でなぞりながら呟く。
「イヤーロブ、トラガス、ヘリックス……」
冬の大三角は覚えていないのに、と笑えてくる。
過去はつめたい夜にさらされて、みぞおちにグサと刺さった。この氷塊が溶けるまでにはまだ時間が必要だろう。
さすり、さすり。
BGMはいつの間にか止まっている。
私は、夜を越してゆく。
【ピアス】
結局まだまだダメなのだ。忘れたいと思っているうちはそれが呪いになっていて、忘れられなくなっている。
お揃いの場所に開けたピアスはもう埋めてしまいたいのに、自分にはよく似合っている、そう思いたくて、未練がましくも残している。
体の習慣をなくしていかないと同じ夜を継続することになるだろうに、気が付かないふりをしているのかもしれない。
ずっとこのまま。
雨の日がずっとこのまま続いたら、靴は永遠に乾かないし、1階も2階も水没してボートで移動する日が増えて、みんなの手にヒレができて、カッパかカエルになるかもしれない。
ずっとこのままご飯を食べ続けたら、体重計に乗りたくなくなって、健康を数値で測るなんて馬鹿馬鹿しい!って太ってることが美の象徴になって、世界からSという単位がなくなるかもしれない。
猫がずっとこのまま寝ていたら、きっと死んだと思ってしまう。息をしてるか耳を近づけるし、冷たくなっていないか触ってみる。そうしてまた鈴が鳴るような可愛い声を聞き逃さないようにじっとそばにいるかもしれない。
ずっとこのまま恋をし続けたら、1つに飽きて浮ついたりするかもしれない。だから恋から愛にしたい。恋だってきっと愛になりたいと思ってる。
ひみつの標本
昔のことに思いを馳せると脳みそが痒くなる。
喜怒哀楽は甘い、酸っぱい、苦い、渋いのように味覚で情報整理されているし、特に記憶に残っているものは温度や匂いまで伴ったりする。
例えばこれは右目の奥、脳の中心あたりにある記憶。
「しょーちゃんはなんでもできてずるい」
運動会のリレーの選手はだいたい地域の少年サッカーを習っているメンバーが選ばれていた。
俺も多分にもれずその常連であった。
口を尖らせて眉を寄せるのは誰だったっけ。
特段リレーの選手になるための努力はしたことがない。
サッカーのレギュラーになるための努力はしていた。
けどそれは報われなかった。
そんなことも知らずに奴は俺を羨んだ。
苦くて生ぬるい嫌な記憶だ。
満員電車で目の前の座席が空いたので座ったものの、直前の客の湿度が不快だった、そんな感覚。
ラブレターを書いたけど直接渡す勇気がなくて持ち帰ってしまった日は冷たいのに焦げたカラメルみたいな甘い匂いがする記憶。
2度と出なかったピアノの発表会。
初めて取れた志望校のA判定。
ネットゲームで知り合った友達に初めて会えた日。
記憶が脳をくすぐる。
そのたび、味覚嗅覚温度覚が記憶を呼び起こし、刺された虫ピンをチクチクと刺し直す。
感情は目に見えないし、文字に残らない。
それでも記憶という
ひみつの標本は、ひとつ、ひとつと増えていく。
虫が嫌いな理由を明確に語る。別に、虫に限った話ではなく、僕は嫌いなモノを嫌いな理由をつけて嫌う。
例えばイカ。生だとどこまで噛んでいいか分からず飲み込むタイミングがわからない。噛んでいるうちに唾液がねっとりして来るのがたまらなく気色悪い。そもそも見た目が怖い。初めて食べたやつはイカれてる。
イカフライなど油よりも強い匂いが立つし、なんだか甘ったるい。あんなに白い体の癖に甘いとは、説明がついていない。小学生の時に無理矢理一口食べさせられたあのイカフライはメラミンスポンジのような歯触りだった気がする。
天日に干してスルメになったとて「かつて生きておりました」とこちらを責め立てるような生命への執着を感じる。
死してなお、味がするのだ。なんなら濃くなっている。
僕は、イカの全てが嫌いだ。きっと向こうも僕が嫌いだろう。同じだけ言われても構わないと思っている。
対して、不思議と好きなものには二の句は告げないものである。
アスファルトを踊る蜃気楼。
波が運んできたシーグラス。
新緑、風に揺れる木陰。
箸より細いそうめんの喉越し。
耳より、心が覚えている祭囃子。
喉が詰まりそうなほど甘いココナッツ。
月明かり常夜灯、目が慣れた時の君の焼けた肌。
夏が連れてくる期待感。
何か、始まる。言葉にできない昂りをいま確かに感じている。
【夏】
なつ、とつく言葉を選んで連ねてみようと思ったけれど、才がなく。「懐メロ(祭囃子になった)」「ココナッツ」しか使えなかった。イカは本当に嫌い。メラミンスポンジの食感は割と満足いっている、私の中では正確に言い当てている。かれこれ、うん10年も口にしていないので悪しからず。
みなさんの夏が少しでも過ごしやすくありますように!