3分で眠れると謳っているBGMにお世話になっている。
カーテンの遮光が甘いせいで車の反射光が天井を走る。目をつむると心臓の音が気になってしまうから、適当な瞬きを繰り返しながら睡魔が来るのを待っている。
イヤホンは右耳だけ。横寝の癖が抜けなくて左側を下にして寝る。
痛かったのは一瞬だけだった。
指でなぞりながら呟く。
「イヤーロブ、トラガス、ヘリックス……」
冬の大三角は覚えていないのに、と笑えてくる。
過去はつめたい夜にさらされて、みぞおちにグサと刺さった。この氷塊が溶けるまでにはまだ時間が必要だろう。
さすり、さすり。
BGMはいつの間にか止まっている。
私は、夜を越してゆく。
【ピアス】
結局まだまだダメなのだ。忘れたいと思っているうちはそれが呪いになっていて、忘れられなくなっている。
お揃いの場所に開けたピアスはもう埋めてしまいたいのに、自分にはよく似合っている、そう思いたくて、未練がましくも残している。
体の習慣をなくしていかないと同じ夜を継続することになるだろうに、気が付かないふりをしているのかもしれない。
ずっとこのまま。
雨の日がずっとこのまま続いたら、靴は永遠に乾かないし、1階も2階も水没してボートで移動する日が増えて、みんなの手にヒレができて、カッパかカエルになるかもしれない。
ずっとこのままご飯を食べ続けたら、体重計に乗りたくなくなって、健康を数値で測るなんて馬鹿馬鹿しい!って太ってることが美の象徴になって、世界からSという単位がなくなるかもしれない。
猫がずっとこのまま寝ていたら、きっと死んだと思ってしまう。息をしてるか耳を近づけるし、冷たくなっていないか触ってみる。そうしてまた鈴が鳴るような可愛い声を聞き逃さないようにじっとそばにいるかもしれない。
ずっとこのまま恋をし続けたら、1つに飽きて浮ついたりするかもしれない。だから恋から愛にしたい。恋だってきっと愛になりたいと思ってる。
ひみつの標本
昔のことに思いを馳せると脳みそが痒くなる。
喜怒哀楽は甘い、酸っぱい、苦い、渋いのように味覚で情報整理されているし、特に記憶に残っているものは温度や匂いまで伴ったりする。
例えばこれは右目の奥、脳の中心あたりにある記憶。
「しょーちゃんはなんでもできてずるい」
運動会のリレーの選手はだいたい地域の少年サッカーを習っているメンバーが選ばれていた。
俺も多分にもれずその常連であった。
口を尖らせて眉を寄せるのは誰だったっけ。
特段リレーの選手になるための努力はしたことがない。
サッカーのレギュラーになるための努力はしていた。
けどそれは報われなかった。
そんなことも知らずに奴は俺を羨んだ。
苦くて生ぬるい嫌な記憶だ。
満員電車で目の前の座席が空いたので座ったものの、直前の客の湿度が不快だった、そんな感覚。
ラブレターを書いたけど直接渡す勇気がなくて持ち帰ってしまった日は冷たいのに焦げたカラメルみたいな甘い匂いがする記憶。
2度と出なかったピアノの発表会。
初めて取れた志望校のA判定。
ネットゲームで知り合った友達に初めて会えた日。
記憶が脳をくすぐる。
そのたび、味覚嗅覚温度覚が記憶を呼び起こし、刺された虫ピンをチクチクと刺し直す。
感情は目に見えないし、文字に残らない。
それでも記憶という
ひみつの標本は、ひとつ、ひとつと増えていく。
虫が嫌いな理由を明確に語る。別に、虫に限った話ではなく、僕は嫌いなモノを嫌いな理由をつけて嫌う。
例えばイカ。生だとどこまで噛んでいいか分からず飲み込むタイミングがわからない。噛んでいるうちに唾液がねっとりして来るのがたまらなく気色悪い。そもそも見た目が怖い。初めて食べたやつはイカれてる。
イカフライなど油よりも強い匂いが立つし、なんだか甘ったるい。あんなに白い体の癖に甘いとは、説明がついていない。小学生の時に無理矢理一口食べさせられたあのイカフライはメラミンスポンジのような歯触りだった気がする。
天日に干してスルメになったとて「かつて生きておりました」とこちらを責め立てるような生命への執着を感じる。
死してなお、味がするのだ。なんなら濃くなっている。
僕は、イカの全てが嫌いだ。きっと向こうも僕が嫌いだろう。同じだけ言われても構わないと思っている。
対して、不思議と好きなものには二の句は告げないものである。
アスファルトを踊る蜃気楼。
波が運んできたシーグラス。
新緑、風に揺れる木陰。
箸より細いそうめんの喉越し。
耳より、心が覚えている祭囃子。
喉が詰まりそうなほど甘いココナッツ。
月明かり常夜灯、目が慣れた時の君の焼けた肌。
夏が連れてくる期待感。
何か、始まる。言葉にできない昂りをいま確かに感じている。
【夏】
なつ、とつく言葉を選んで連ねてみようと思ったけれど、才がなく。「懐メロ(祭囃子になった)」「ココナッツ」しか使えなかった。イカは本当に嫌い。メラミンスポンジの食感は割と満足いっている、私の中では正確に言い当てている。かれこれ、うん10年も口にしていないので悪しからず。
みなさんの夏が少しでも過ごしやすくありますように!
隠された真実。
みなさんから集めた秘密を「だけど私は、それを隠している」でまとめてみました。
髪の毛をフロスにする人がいると知って憧れを持っている。
だけど私は、それを隠している。
中学生までは本気で歌手になろうと思っていた。椎名林檎になれると信じていた。
だけど私は、それを隠している。
高校の時に進路を声優や、ラジオパーソナリティなどを目指したいと本気で考えていた。
だけど私は、それを隠している。
社員旅行で行った沖縄で浮かれて奇天烈な帽子を買ってきた。
だけど私は、それを(家族に)隠している。
社員旅行で行った沖縄で浮かれてアニソンバーに行ってきた。そこで出会った元ウチナーと島唄を熱唱した。
だけど私は、それを(会社に)隠している。
95キロのお父さんと相撲をして、勝った。
だけど僕は、それを隠している。
実は母親の美貌と魅力に憧れがある。
だけど私は、それを隠している。
小学1年生から3年生くらいの記憶がごっそり抜けている。
だけど私は、それを隠している。
Steamのゲームのほしい物リストがえっちなゲームでいっぱいです。
だけど私は、それを隠している。
大好きなゲーム実況者、三人称のPOP UP SHOPでお金を使いすぎた。
だけど私は、それを(同居人に)隠している。
小さい頃に、声優さんに軽い恋をしていた。
だけど私は、それを隠している。
「これはマジでやばい媚薬」友達に一万円で売った薬の中身は、ダイソーのビタミンC錠剤だった。
だけど俺は、それを隠している。
人には言えないほどの結構なM。
だけど僕は、それを隠している。
SNSに突然DMが来た。
日本語が変だったので、外国人かと思ったが実は小学生で数回やり取りをした。
でけど私は、それを隠している。
20代中盤、やたらと人妻にモテた時期がある。
だけど私は、それを隠している。
実はいま、肌が荒れていてニキビができている。そしてニキビパッチを貼っている。
だけど私は、それを隠している。
Xで小説を投稿している。
いいねがついてはいるがそのうち一つは自分で押している。
だけど私は、それを隠している。
家にあった手品の本に載っていた、引田天功に初恋をした。
だけど私は、それを隠して生きている。
身内がキラキラしていて、本当は憧れている。
だけど私は、それを隠して生きている。
私は、秘密にしていることがあります。
だけど私は、それを隠している。
酔っ払いすぎると夜中に台所探検隊になります。
だけど私は、それを隠しています。
ぺけ、が好き。
だけど私は、それを隠している。