或る本の巣、模写。

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7/3/2024, 3:45:05 PM

「この道の先にラピュタはあるんだ」


「なにそれ?」


「……」


「ねぇ、今のなに??」


「いや、好きかと思って」


「……好きだけどwwそんだけ?」


「 うん 」


少し恥ずかしそうに、いやだいぶ恥ずかしそうに、ぎゅっとハンドルを握りしめて、じっと赤信号とにらめっこをしている彼の横顔をにんまりと笑いながら見つめていた。
小さい頃、信じ続けていればいつか[天空の城ラピュタ]に行く機会が巡ってくると思っていた。だけど、現実は残酷なほど現実だった。

小、中、高と大学をそれなりの時間を経て、社会人になった今。ル・シータ症候群になんてかかっていられない。私はシータになるチャンスをもう失ったのだ。赤信号で止まるわけにはいかない。


「ついたよ」


「え、あ。ほんとだ」


豊橋駅20:26新幹線の出発まではあと約40分。駅直結の地下駐車場にいつの間にかついていた。車内には彼が10代の頃にまとめたというプレイリストが流れている。


「サヨナラCOLOR、懐かしい」


「そうだね」


________________

 そこから旅立つことは
 とても力がいるよ
 波風たてられること
 嫌う人ばかりで
 サヨナラから始められることが
 たくさんあるんだよ
________________


そうだねと相槌を打ってみたけど初めて聞いた曲だった。だからこそ耳を澄ませてしまった。ダメだ、泣きそうだ。

本当は離れるために閉じていくこの時間がきらいだ。車内ではもう次の曲が始まっていた。


「ほら、行く準備して?」


頭にポンと置いてくれた手がすき。その手に甘え続けられたなら。


「うん」


ゴソゴソ、ガサガサ。
助手席ではこれ以上時間を稼げそうにない。もう席を立たないと。シートベルトを外し、ドアノブに手をかける。

だけど……。

振り向いて彼を見る。
きょとんとしている彼の懐に飛び込んで思い切りぎゅっと抱きついた。


「どうしたの、寂しくなっちゃった?」


「……」


「よしよし、いいこww」


「ちがうもん!フラップターで助けに来てくれたパズーから離れないシータの真似だもん」


ぎゅっに対して、ぎゅっを返してくれる彼の腕の中を抜け出すと、さっきまでの私みたいなにんまり顔の彼がいた。


「バルス!!!」


「照れ隠しが物騒すぎるでしょっww」


「だって!」


「さっきの仕返しだよ」


優しいハグと同じ気持ちのキスをして、車を降りた。まだ少し早いからタリーズコーヒーで季節限定品をおいしいおいしい!と飲み、明日は晴れるかなとか距離があることも忘れて話した。あっという間に時間になり、改札の前で次も早めに予定合わせられるといいね、なんて言って手を振った。

ホームに降りてまもなく、新幹線は定刻通りにきた。手元のチケットと自分の指定席の番号が合っているか3回確認して、席に着く。スマホの充電は特に必要ない。

新幹線は発車する。
赤信号が青に変わった。
私も同じく、前を向いている。
彼も同じく、きっと前を。

6/26/2024, 12:01:31 PM

【トロッコ問題】


もし5人の元彼と
自分を比べられた時
あなたはどうする?

あやかはいい女だ。
顔もいいし、センスもいい。
体の相性も格別だ。

しかし
一つだけ難点がある。

何かにつけて過去と
現在を比べたがるのだ。

チャラついた合コンで
出会った俺たちが
体の関係を持った後に
初めてのまともなデートで
映画館に行こう言った時。

甘々の恋愛ものが好きそうな
彼女が実はホラーが大好物で
それに対して「意外だね」と
言ってしまったことがあった。
あやかはひどく憤慨し、拗ねた。

「マサくんは決めつけたりしない人だった」

座席を選ぶ時
当然のように
目線の高さより少し上の
J列真ん中を選ぼうとした時は

「映画館で働いてた優くんが通路の前側が1番いいって言ってたよ」

いつも食べるソルトポップコーンを
注文した時は
「バターオイル多めで」と、
こなれた感じでいうものだから
「乙な頼み方だね」と褒めてみた。

「ハルトくんが教えてくれたの、グルメ情報助かるよね」

入場ゲート前のトイレより
劇場内に入ってからの
トイレの方が空いているのは京介くんから。

腹は立たなかった。
あやかがもう
過去のものとして語っているから。
だけど気持ちのいいもんじゃなかった。
ここまで名前を出されると
流石に嫌な気持ちになった。
映画も半ば集中できぬまま
エンドロールを見送った。

人ごみが8割ほど捌けるのを待って
立ち上がり映画館を出た。
 
普通はここで
感想を伝えあったりするだろうが
俺はずっと腹にあったことを伝えた。

「あのさ、元彼の話あんま聞きたくないかも」

「え」

「やっぱ比べられてるみたいできついや」

「そっか、ごめん。……でも、嬉しい」

「なんで?」

「それ言ってくれたの、2人目」

たかしくんも優しいんだね。
そう言ってあやかはとても優しく笑った。

はて困った。
俺はこの女が好きだが、嫌いだ。

この女は、
過去の妄執に取り憑かれながら
俺の隣にいる。

少なくても5人の男たちが敷いてきた
線路の上に立っていて
いつしか線路を敷く側に回って


あやかにとって俺が
知識の泉に、経験値になって
この女に溶け込んでいくのかもしれない。

6/25/2024, 4:15:26 PM

6月25日(火)短歌
テーマ
【夕立 七夕 桃】

桃食むと
思い出される
シワの手を
今年も思い出せるしあわせ

→おばあちゃんに桃をむいてもらった。桃を食べると思い出す、手のしわもその優しさも。


うっせぇわ
友と口論
フルボッコ
リセットボタンは
夕立の傘

→フルボッコが思い浮かんだらもうね、ダメだったw 囚われてしまいました。運動部の仲間同士ぶつかっちゃったのかな?言葉で喧嘩をしちゃって、でも突然の雨で傘をシェアして帰る。言いたいこと言ったら夕立が晴れる前に2人は肩を組んでると思う。


私たち
会えないんじゃない
会わないの
七夕の雨
鳴らない通知

→七夕は雨が多いらしい。だけどきっと雨雲の上では織姫と彦星は結ばれている、私たちはその選択を選ばないけれど。


【ここからは番外編?】

この夏も
暑し涼しの 応酬に
勝てるのか俺、負けるかも俺

→自分は気をつけていても、暑いところから涼しい場所へ、またその逆だって体には大きな負担。どうかみんな気をつけて!


夕立に 打たれて帰る
エコバック
チキンカツだけ
死守すりゃ勝ちよ

→アワチンの献立より。
夕立に降られたサラリーマンの今日の戦利品は揚げたてのチキンカツ。しける前に、冷める前に家路を急げ!


「すぐだから」 台所から 届く声
胃袋はすでに ぎゅっと掴まれて

→恋人にしろ夫婦にしろ、キッチンから聞こえるこの声は好きでしょ。ちなみに私は豚汁と餃子が得意。


解説をつけると長くなっちゃう。ここまでお読みいただきありがとうございます。また、次のお遊びでお会いしましょう🩷

6/24/2024, 2:16:21 PM

担任のめぐみ先生はとても器用な人だから
教室の掲示物をたくさん作ってくれる。
朝、教室に入って[6月のお誕生日]を確認する。


よし。今日で間違いない。


4年生の初めに転入してきた
ショーンくんは今日が誕生日。
5時間目の生活科の時間では
6月生まれのみんなの
お誕生日会をすることになっている。

だけど私はショーンくんに
お誕生日プレゼントをあげたい。

今月のおこずかいは使っちゃったから
お手紙しか書けなかったけど
外国ではメッセージカードを
プレゼントすることが普通って
[マツコの知らない世界]で
言っていたから頑張って作ってみた。


あとは、渡すだけ。


図工の時間に
マーブリングをした。
水に一滴、一滴
色インクを垂らして画用紙で掬い取る。
私はピンクと紫とシルバーを使った。
ショーンくんはとても綺麗な色だね!と
褒めてくれた。
この画用紙でメッセージカードを
作ってあげられたらよかったな。

給食のデザートに
冷凍のパイナップルが出た。
舌がピリピリするから嫌いだと
ショーンくんは言っていた。
私もそう。
味は好きだけど
舌がピリピリする。
一緒だ、うれしい。

午後掃除はいつもよりみんなが
協力し合って早く終わらせた。

黒板に薄紙で作った花飾りと
お誕生日おめでとう!の文字を書く。
飯田くんとショーンくんと
ゆかちゃんが今日の主役。

みんなー!主役さんたち入場するよー!

めぐみ先生の元気な声に
教室のみんなは「はーい!」と
もっと元気に返事をする。

廊下にいる主役さんたちは
めぐみ先生の作った
王子様とお姫様の冠をつけて
大きな拍手の中、少し恥ずかしそうに
でも、嬉そうに教室に入ってくる。

教壇の上に飯田くんが上がった。
続いてショーンくんも。
そして、ゆかちゃんが教壇に上がろうとした時
「ゆかちゃん!おめでとおお!!」
という大きな声がした。
その声の方向へよそ見をしたゆかちゃんが
教壇を踏み外して転びそうになった。

すかさず手を伸ばしたショーンくんが
めぐみ先生の作った王冠のせいで
本当の王子様みたいに見えた。

女の子たちはきゃーっ叫び、
男の子たちはおおおー!といった。
飯田くんは何が起きたかわからなかったみたいで
決めポーズをしていた。
ざわつきを残しながらも
男の子たちはみんなイイダ!イイダ!と
いつもみたいに騒ぎ始めた。

私はちくりと胸が痛かった。
ショーンくんと同じ6月生まれになりたかった。
一緒に冠を被りたかった。

楽しい気持ちになりきれないまま
お誕生日会は進む。
歌を歌って
ハンカチ落としをして
クイズ大会をして
そのまま帰りの会をして
ランドセルを背負った。

昇降口で靴に履き替えて
学校を出れば
今日が終わってしまう。
せめてショーンくんにおめでとうと
言いたかった。

とぼとぼと正門に向かって
立ち止まり、また歩き出し
振り返り、歩き出し。
とぼとぼ、とぼとぼ。


どうしたの?
だるまさんころんだ?


ちっちがうよ!


ふふ、変なの。


突然ショーンくんが現れて
あまりにびっくりしてしまった。


日本のお誕生日はもっと
静かなんだと思ってた。


そうなんだ。
楽しかった?


もちろん!
とっても素敵だった。


そっか、よかった。


うん、今度はひまちゃんの番だね!


え?


ひまちゃん、7月生まれでしょ?


そう、そうだよ!


お母さんが、ひまわりのレターセットを買ってきたんだ。
それを見た時に、ひまちゃんのお誕生日はメッセージを書こうと思ったんだ!


楽しみにしててね!と
ショーンくんはかけだしてしまった。
渡せなかったメッセージカードと
私は取り残されてしまった。
さっきまでの暗い気持ちは
ショーンくんが晴らしてくれた。


そうだ!
ショーンくんが綺麗な色と言ってくれた
あの画用紙でまたメッセージを書こう。
ちゃんとおめでとうと、ありがとうを
伝えなきゃ。
今度こそ。

6/23/2024, 1:29:41 AM


6月22日(日)

書く習慣からのお題
【日常】

【なんの花?】
やぶでまり
[年齢を美しく重ねる]

【今日の色】
スカーレット


スカーレットの紅を引き
私の原宿を闊歩する。
キュートでラブリーな私も素敵だけど
今日はいつもよりちょっとだけ
ワルでいきたい気分。

厚底ヒールも履きたいけれど
尻もちをついたら治りも悪い年頃で
そんなことより今日という記念日を
完璧に過ごしたい。

小ぶりな黒い日傘に艶やかな
リボンの波が美しい。
黒いドレスは膝上の丈。
柄の細かい編みタイツと
パープルストッキングを
組み合わせてレイヤードを楽しむ。

腰のコルセットは編み上げで
ふんだんにあしらわれた
ローズの刺繍が細かくて綺麗。
老眼鏡がなきゃ見えないけれど。
あ〜あ、やだやだ。
自分で老眼鏡なんて言いたくないわ。
[リーディンググラス]だって
コーデの一部にしちゃうんだから
ほんとに私は唯一無二。




みて、やばくね?

あのババア痛くね?




通りすがりのクソガキが
わざと耳に入る声でさえずった。
ご丁寧に指までさして。
母親の腹の中からやり直しな!

貴様らが60になった時
同じことをクソガキに言われるか
さびれたスーパーの衣料品を着て
背虫のババアをやってるだろうよ。

まだ経験もしていない未来を
甘くみてんじゃないよ。
と、まあ昔の私だったら
昨日までの私だったら言ってるね。

今日は私のゴスロリ記念日。
ゴスロリを愛して愛されて
気づいて振り返ったら50年。
積み重ねた日々は
辛くて重いこともあったのに
「ここで終わり」と決めた途端
揺れるドレスの裾くらい
短くて愛しくて仕方がないの。

人生最後の、ゴスロリの日。
美しく、年を重ねた私の最後。
誰に何を言われようと。
最後まで、私らしく。

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