‘‘行かないで’’
母が亡くなった時 初めて 家族の死に面した
行かないで! お願い 行かないで! と何度も何度も 心の中で叫んだ
母は 最後の 長い息を吸い込むと はっと目を見開いて 私の顔を一瞬見た
いつもの 元気な目に戻った! と思った次の瞬間 息を引き取って 逝ってしまった
これ程 行かないで! と願った事は かつて 無い
弟が 突然 逝ってしまった
行かないで! と叫ぶ間もなく 心筋梗塞が たった一人の弟を 奪った
彼の 最後の言葉を聞く事も出来ず
私の最後の言葉を 伝える時間さえも与えられず
弟は 最後の時に 何を思っただろう
考えただけで 胸が張り裂けそう
行かないで! と 一万回 叫んで 神様にお願いしても 聞き入れられなかっただろうか
父が 倒れて 病院へ運ばれたと 緊急電話があった
まだ 行かないで! お願いだから まだよ! と心で叫びつつ 病院へ向かった 救急病棟の ベッドに 横たわる父に お願い 行かないで!
私の家族が 私一人になってしまうよ! と 目を開けない父に 叫んだ
片方の目の縁に キラリと光る 涙の一粒を残して 二度と目を開かないまま 父は 逝ってしまった
私の 行かないで! との切なる願いは 又しても届かなかった
肉親との別れは 残酷
ただ 深い悲しみだけを残すだけ
行かないでと どれほど頼んでも 叶わない
今 主人と散歩をする
主人は 先を行こうとして
私を追い越して 歩く
お願い 私の先を 行かないで!
私を 追い越して行かないで!
子供のように
子供にかえって 子供のように 子供時代を 生き直す事ができれば 私は 何をするだろう
やってみたかったが 出来なかった事 やらなくていい事を 無理して 失敗した事 失った 大切なもの いらないのに こだわり続け 未だに 執着しているもの
たくさん たくさん 思い出す
やり直せるならやり直したい と考えて ふと 思い直す
様々な あんな事が 無ければよかった という思いも その 心が痛む経験が無ければ 今を 思いを深く 生きていることも出来ないのではないだろうか
いっぱい 嫌な思いもしたけど それがあるから 今の 情感や 思い遣りや 感性を研ぎ澄ます事も 実現できているのではないか
今の方が 昔より もっと新しい自分を生きている 長年の思いの積み重ねが 今の自分を 花開かせている
そうか! 私は 今 子供時代に戻って 子供のように 新しい物を見つけようとし 新しい物に チャレンジしているのか
今 正に 子供のように 好奇心いっぱいに 期限付きの人生に向かって 子供にかえって 精一杯 羽ばたこうとしているのか
良きも悪きも 今までの 全ての経験を背負って
朝 カ−テンの隙間から 日が差し込む 今日も お天気だ! ぼ−っと寝ているの 勿体ない 布団を跳ね除け バルコニーに飛び出し 朝日をいっぱい浴びる
街は すっかり明るく変身 一日の始まりを告げる
つい その6時間ほど前には 同じ街が 真っ暗な空に包まれていた
点々と灯る 窓辺の光の 宝石を散りばめた夜は カ−テンを閉めるのも 勿体ない
一晩中 夜が明けるまで 眺めていたい 夜の闇に溶け込んで
それでも そろそろ寝るかな と 時計に目をやると 午前3時過ぎ カ−テンを そおっと閉めて 布団に潜り込む
お休みなさ~い
黄昏
今日の黄昏の色は 人生の黄昏を思わせる 寂しい色だった
じっと見つめていると 私の心と体が その寂しさ色に 吸い込まれそうになる
ふっと 足が中に浮き そのまま 黄昏の空へ 引き寄せられ 飛んで行ってしまいそう
はっと 我に返る いけない いけない
寂しさに向かって 残りの人生を生きるなんて どこかに 希望を置き去りにした人生には 決してしたくないと
無理やり 元気を振り絞り
明るく振る舞ってみる
足を踏ん張って 地面に立ち 両手を 思いきり高く伸ばして グッと力を入れてみる うん これでよし
明日は もっと明るい黄昏色に 出会えるかな