‘‘行かないで’’
母が亡くなった時 初めて 家族の死に面した
行かないで! お願い 行かないで! と何度も何度も 心の中で叫んだ
母は 最後の 長い息を吸い込むと はっと目を見開いて 私の顔を一瞬見た
いつもの 元気な目に戻った! と思った次の瞬間 息を引き取って 逝ってしまった
これ程 行かないで! と願った事は かつて 無い
弟が 突然 逝ってしまった
行かないで! と叫ぶ間もなく 心筋梗塞が たった一人の弟を 奪った
彼の 最後の言葉を聞く事も出来ず
私の最後の言葉を 伝える時間さえも与えられず
弟は 最後の時に 何を思っただろう
考えただけで 胸が張り裂けそう
行かないで! と 一万回 叫んで 神様にお願いしても 聞き入れられなかっただろうか
父が 倒れて 病院へ運ばれたと 緊急電話があった
まだ 行かないで! お願いだから まだよ! と心で叫びつつ 病院へ向かった 救急病棟の ベッドに 横たわる父に お願い 行かないで!
私の家族が 私一人になってしまうよ! と 目を開けない父に 叫んだ
片方の目の縁に キラリと光る 涙の一粒を残して 二度と目を開かないまま 父は 逝ってしまった
私の 行かないで! との切なる願いは 又しても届かなかった
肉親との別れは 残酷
ただ 深い悲しみだけを残すだけ
行かないでと どれほど頼んでも 叶わない
今 主人と散歩をする
主人は 先を行こうとして
私を追い越して 歩く
お願い 私の先を 行かないで!
私を 追い越して行かないで!
10/24/2022, 5:16:04 PM