-海- 【お題:遠い日の記憶】
「ふう」
大きな溜め息を着く。
この海は記憶に新しい。だけど同時に古かったりする。昔幼なじみの男の子と一緒にきたことがある。そして、
私が今"彼"と住んでいる場所でもある。
移住するとき私が海の近くを希望したら偶然彼が見つけてきたのだ。
そう。偶然。しかし必然だったのかもしれない。私には"彼"の考えていることがわからない。
付き合ってもいないのに一緒に住むだなんて考えても見なかったようなこと。
それをすんなりと受け入れ、生活をしている。
でも確実に分かっていることがある。
『"彼"は私のことは好きじゃない』
私が"彼"に何度伝えても伝わらなかった『好き』が私のことを攻撃してくる。
そして、今。こんな結末を連れてきた。
「はぁ、はぁっ、桜!」
「やっと来たんだ。千秋くん」
彼はここまで走ってきたのか息が切れている。
「なんで、出会った頃の呼び方...!おい、桜、何してっ!」
「ふふふ、秋くんまでこっちに来たら濡れちゃうでしょ?」
そう、笑いながら言う。
「そんなこと気にしている場合じゃないだろ!」
「ほんと秋くんは優しいなぁ、...きみが私のことを好きになってくれたら本当に良かったのに」
「え?」
「ずっと考えてきたんだよ。幼稚園の頃隣の家に引っ越してきた"幼馴染の君"と両思いになれること。
...でもそれは叶わなかった。だから今日、さよならをするの。世界に。全てに。」
「そんなこと!俺だって桜のことがずっと好きだった!」
「ふふふ、秋くんは本っ当に優しいなぁ。でもね、嘘は良くないんだよ?」
「嘘なんかじゃっ!」
「このタイミングで好きって言われてもそんなこと信じられないよ。私、神様でも何でもないから秋くんの気持ちなんて
わからない」
「でもっ、本当に!」
「秋くん、遊ぼうよ。昔みたいにさ。海の中、駆け回ったでしょ?」
そう言って海の中を走り出す。
「桜っ!」
そんな声が聞こえたけど、気にしない。冷たい。7月の海とはいえ、まだ夜の海は冷たかった。
まるで、あの日みたい。
「千秋く~ん!」
「待って、桜ちゃん!」
「きゃっ!」
「桜ちゃん!」
あのとき、転んだ私の手を引っ張り上げてくれたんだよね。秋くん。
そんな遠い日の記憶。それにふけってる間にもう顔に水かかる深さになっていた。
進みづらい。そりゃそうだ。全身で水の抵抗を受けているのだから。
人は20センチもあれば溺れるって昔学校の先生が言っていた。
「あっ!」
波に流されてバランスを崩した。沈む。
...もうこのままでいいか。さすがの秋くんもここまでは来ないだろうし。
そうして私は目をつむた。
君と一緒なら大丈夫【お題:空を見上げて心に浮かんだこと】
「怖いなぁ」
「...え?」
夕日のなか、僕は彼女と話していた。
「きれいとかじゃなくて怖いんだ」
「うん。私もこの感性って人と違ってて変わってるって思うけど、やっぱりそう感じるんだ」
「変わってるだなんて思ってないよ。でもなんでそう感じるのかなって」
「...なんかね、日が沈むとき太陽って一番強く光るでしょ?その光りに包まれて何処か行っちゃうんじゃないかって、
考えちゃうの。そうしたら離ればなれになっちゃうから、だから、そうなったら寂しいなって思って」
彼女は寂しそうにそう呟く。
「大丈夫だよ」
「え?」
「僕もそのときは着いていくから。ひとりぼっちにはならないよ」
「もう、友達とか、家族に会えないかもしれないよ?」
彼女はそう苦笑しながら言った。
「大丈夫だよ。だって一番好きな人と一緒にいられるんだから」
「ふふふ、そういうところだよ?」
「ええ、僕なんか変なこと言ったかなぁ」
「そうじゃないの。もう、ほんと優くんってばほんと鈍感なんだから。
...帰ろっか」
「うん。そうだね」
そうして僕らは帰路に着いた。