“羅針盤”
私は最初からあの人のことが好きで好きで、仕方がなかったはずなのに、向こうに好きと言われた途端安心してしまって、己の好きという気持ちを見失っていた。
数分前、あの人の動画や写真を見返して、どう思ってるのかもう一度考えて、あの人の仕草やぎこちない食べ方を思い出して思った。私は全部、あの人の全部が好きだ
仕草も食べ方のぎこちないところも、嫌だと思ってしまっていた。だが、今ではどうだろう?全部が可愛らしく、それでいて愛おしく思える。私はずっと、あの人が私を知る前からずっと好きだったのに。もう2度と、こんなあやふやな感情であの人を不安にさせないよう、“羅針盤”にでも思いを込めておこう。どれだけ2人が、目指す道は違ったとしても、同じ“羅針盤”を見つめて、共に彷徨い、共に照らせるような気持ちでいられるように。
“手のひらの宇宙”
それはキラキラしてて、いつもそばにあって、
君もいて、彼もいて、大好きな家族もいて、
いつも私を何かが手招いていて、
充実して、それはもう手放せなくって、
やめられないほど中毒になるスマホだね。
寝てる時に“そっと”布団をかけられたい
これこそが膨大な愛だと思う
ふとしたときに、髪が伸びたねと言われたい
これこそ、髪切ったね、よりも遥かに大きな愛だと思う
“あたたかいね”
きみのこころもゆびさきも、あたたかそう
いつかぎゅっとして、あなたもあたたかいのねって
となりでてをつないでわらってほしい
きみのえがおのほうが
わたしのこころを、あたたかくさせるのにね
“Ring…Ring…”
彼がそんなに純粋で、女絡みが全くなくって、誠実なんて、そんな人なわけないじゃないか。彼も人だ。私はずっと期待しすぎていた、ただ、好きと言われただけで。
好きなら、きっと全てにおいて私だけだろうし、何を持ってでも優先してくれるのは私だけだと思っていた。高校生だろうとこれは誠実なものであって、遊びではないと
いや、遊びだと言われたわけではないが、他の子と仲睦まじく会話している声を聞いて思った。「私よりも楽しそうじゃないか」と。これは汚い嫉妬だ。なぜなら、私からは絶対に好きと伝えないくせに、彼にはずっと好きでいて欲しくて、私が呼んだ時にはすぐ来てほしくて、約束は絶対に破らない人でいて欲しいという、腐った欲望であるからだ。「信じる」ことには時間を要する癖に、「見損なう」ことには一瞬で信じるからだ。「好きだ」という言葉は信じられない癖に、「好きじゃない」という可能性はすぐに信じるからだ。
私は欲望に塗れた汚い人間だ。彼もそうかも知れない。ふと思えば、彼のことなんて何も知らない。名前と、生年月日と、性別くらい。保険証に書いてあるようなことしか知らない。彼が他の女と話していることを思い書き殴っている今、心なんて晴れるわけがない。
ただ、彼が少しでも私を「好き」と思ってくれたことを信じて、少しだけ「待ってみる」というのもまた、重要かも知れない。
何を信じていいかわからない、彼の全てを信じていいとは思えないし、私だって私自身を信じることは難しい。
そんな私にふと“Ring…Ring…”と通知が入る
「明日、お昼一緒に食べれる?」彼からの通知だった。
先ほどの虚な心など忘れ、私はまた陽気に「図書館前で待ってるね」と送る。