「今月末、会えるかな?」
遠距離恋愛中の彼からLINEがきた。
久し振りに会える。約3ヶ月ぶりに会えるんだ。
私は、「もちろん!」と返信した。
どんな服にしようか?
どこへ行こうか?
まだ半月はある。
今からたくさん考えよう。
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約束の日、とびっきりのオシャレをし、彼と待ち合わせしている駅に着いた。
あと10分で彼が来る。
彼と私は付き合って3年、出会った当初から遠距離恋愛をしているので、物理的距離が離れていることに慣れてはいるが、やはり会えるのは嬉しいものだ。
インターネット上で知り合った私たちが初めて会ったのは3年半前だった。
共通の趣味のオフ会が開催され、そこで初めて顔を合わせた。
私は話していくうちに惹かれていったが、彼は一目惚れだったようで、告白していいものか随分迷ったと後から聞かされた。
そんなこと考えないで、告白してくれても良かったのにね。なんて。
そんなことを考えていると、彼が乗る電車が見えてきた。
もうすぐ、彼が降りてくる。
いつもすぐに私を見つけて、ワンコのように駆け寄ってくる。
そんな姿を想像して、私はクスッと笑ってしまった。
「胸が高鳴る」
こんな世の中はもう嫌だ。
遊ぶ時間も、テレビを見る時間も、全てを費やしてきたのに、私は大学受験に失敗した。
友達との約束も断っていたから、友達は皆離れていった。
そんなタイミングで、両親の離婚。
お互いに不倫をしていたらしい。私は邪魔らしくて、お金だけ渡されて1人で暮らすことになった。
同じ大学に行こうと誓った彼氏とは、自然消滅。
私の受験失敗が原因だ。
浪人する金はない。
働くことを余儀なくされたが、就職先も決まらない。お祈りメールばかり。
なんで私が、なんで私ばかりが、こんな目に遭わなきゃならないの…
こんな人生はもう嫌だ。
私は、ベランダの柵に足をかけた
「不条理」
「…ごめん、別れよう」
久し振りに会った彼女が、涙目でそう告げた。
「…わかった、五年間ありがとうな」
俺はただそう伝えた。
「うん、今までありがとう。またね」
そう言って少し小走りで去っていく彼女の後ろ姿を眺める。
俺は絶対泣かない。
だてに五年も君の隣にいたわけじゃない。君のことは何でも知ってる。
君は嘘をつくのと隠し事が下手で、泣き虫で、甘えん坊で、笑顔が可愛くて、優しくて…
俺にはもったいない彼女だ。
どんな姿の君も愛する自信がある。
例え痩せ細って、黒髪のロングヘアーが全部抜け落ちても。
だから、近いうちお見舞いに行くから、また笑顔を見せてくれよな。
「泣かないよ」
音がする。
新居に入居してから半月。
ピッタリ1時になると、変な音が聞こえるのだ。
ここは5階建マンションの2階。
もちろん、他の住民も生活している。
周りの住民の発する音の可能性もある。
ただ、違うのだ。
他の部屋から聞こえるという感覚ではなく、私が暮らしている部屋の中から聞こえる。
ワンルームなのだが、浴室の方から音がする。
浴室には窓があり、風の可能性もある。
だが毎日ピッタリ1時にのみ、変な音が聞こえるのはおかしいし、明らかに単純な風の音ではない。
怖いと思いながら、音が聞こえる時間に浴室を覗いてみた。
窓を叩く手が見えた気がする。
「えっ」
思わず、声を出してしまった。
その手はスーッと消えた。
それ以降もあの音はまだ聞こえるが、もう見に行く勇気はない。
ここは2Fで、浴室の窓がある位置に人が立てるスペースはない。
アレを見てしまってから、音の鳴る時間が少し長くなった気がする。
私はただの、怖がりなのだろうか。
「怖がり」