「……家、かな?」
君はしばらく悩んでから、真面目な顔でそう答えた。僕らは顔を見合わせて、それから「ズルじゃん」とケラケラ笑った。
季節は夏だった。
遅くなった帰り道、何人かの友達に手を振ったあと、たまたま同じ方向。いくつかの偶然が重なって、僕は今、君の隣を歩いている。
夏でも夜はすこしひんやりとして、吹く風が頬に心地よかった。
家に帰って布団に潜ったら、君は忘れてしまうような他愛もない話をいくつかして、そのなかの話のひとつだった。
「無人島にひとつ持っていくなら?」
よくある話題に君は真剣に悩んでくれて、その回答にふたりで笑い合う。
こんなことで、こんなに笑っちゃう。ちょっと悔しいのに、ずるいよ。息があがって空を仰ぐ。ああもう、月がきれいだ。
「無人島にひとつ持っていくなら?」
僕は言えなかった。
ずるいのは僕のほうさ。
すこし湿った夜の空気も、風に揺れてた草のにおいも、虫かカエルかわからない音色も、君の笑顔も、この熱も。
きっとずっと忘れないよ。
意気地がないから今日の思い出を切り取って、きっとずっと大事にして、いつか答えの代わりに持っていくよ。
「ただ君だけ」
生まれたときから続いてるこの煌めきが
今もわたしを導いていて
特別じゃない
でも、この道の先に
わたしを特別と呼ぶあなたがいるから
行こう 行こう
願わくば、
その道すがらわたしも
誰かの夜闇を照らせたならば
「星明かり」
右上にちょん、こっそり書き足す
頭の先からしっぽの先まで
「大好き」
こどもの頃は大人のまねして、
「良いお年を」なんて言ってみた
大人になったらこどものふりして、
「またね」って言いたくなった
年を越える瞬間、
ぼくはきっと地球にいないよ
跳ねる心のままきみに手を振る
もういくつ言えるかな
またきみに会えるかな
またね またね
「冬休み」
途方に暮れて立ち尽くすことしか
できなかったのに
隠した本音もごめんなさいも
言えなかったのに
僕の耳は、隔てた壁の壊れる音を聞いた
ひび割れた隙間からのぞいたら
君の笑う顔が見えた
「一筋の光」