「薔薇なんていらないよ、特に貴方からなんて」
僕が愛してやまない彼女は僕のバラを受け取ることを拒んだ。
何ヶ月か前のこと、彼女が一人で本を読んでいるところから出会いは始まったんだ。
その綺麗なまつ毛に、立ち振る舞いに、横顔に、この世のもの全てを見透かしてしまいそうなほど透き通ったあの青い瞳に一目惚れしたんだ。
そこから話しかけていったのが始まり。
正直人間相手に話しかけるだけで緊張したことないのに、今回ばかりは勇気をめいいっぱいだした。
最初の君はあからさまに僕を怪しんだけれど、プレゼントをあげたり、話す回数を増やすごとに君の笑顔も増えていった。
僕はそれが嬉しくてたまらなかった。
君が好きっていってたチューリップの花畑に行った時の笑顔は忘れられない。
最初に会った時の表情より、数百倍も美しくて、綺麗で惚れ直してしまった。
だけれどその後から僕のプレゼントを受け取ってくれなくなった。
でも話は聞いてくれるからきらいになったわけじゃないと思ってた。
両思いだって信じてた。
でも彼女は僕からの「愛」はいらなかったみたい。
信じてきた気持ちはただの自分の思い込みだったってのはだいぶショックだけどね
「そうか、すまない
僕の勘違いだったみたい」
君はなぜだかすごく辛そうな表情をしてその場から去っていった。
君と両思いになって、こんどは家でもプレゼントして一緒に住もうかなんて考えてたけど、早とちりしすぎたね。
君の背をまっすぐ見つめては凍てつくように冷たい涙が頬を伝った。
悲しくないといえば嘘になる。
辛くないといえば嘘になる。
僕と付き合って欲しくないといえば嘘になる。
でもいいよ、いいんだ
僕を選ばずにもっと素敵な人と出会えるならそれでいいんだよ。
僕の幸せは君が笑ってくれることだから、それでいいんだから。
そう自分に言い聞かせ、唖然と立ち尽くした。
嗚呼、冷たい涙が降り注いでくる。
「一本の薔薇を捧げよう」
そう言って綺麗な薔薇を差し出す貴方は私の嫌いな人。
いつもロマンチストで楽観的な彼は私と全く気が合わない。
私は現実主義でネガティブで一人、だけど彼はいろいろな人から愛されてた。
別に私に何か面白いことがあるわけでもないのに突如として彼が現れて、ずっと絡んできてた。
でも悪くはなかった。
最初は怪しく感じたけど話して行ったらすごく楽しくて、人といる幸せを久々に感じたの。
それに彼が私に何かをプレゼントしようとしたことは何回もあった。
ある時は映画のチケット、ある時はぬいぐるみ、そしてある時はケーキといろいろなものをもらった。
映画はすごく面白かったしぬいぐるみだって今もベッドで一緒に寝るぐらいには気に入ってる。ケーキを二人で食べたあの時間は言葉に表せないくらい最高だった。
だけどある時一緒に花畑に行った時、貴方は私に
「本当に君は最高な友達」
と言ったね。
すごく嬉しくて、悲しかった
私といる時間が楽しいって思われてるのはすごく嬉しかったけど、貴方の一言で私の初恋は呆気なく散っていたことに気がついた。
それからは貴方のプレゼントは貰わなくなっていった
思い出や貴方からの言葉が増えるたび、彼が”好き”と言う気持ちと”恋は叶わない”という現実が大きくなる。
だから嫌いなんだ
私の気持ちも構わずまたプレゼントしにくる貴方が
私の初恋を奪ったくせして責任取らない貴方が
期待させるだけさせて気持ちには応えない貴方が
すごく好きですごくきらい
こんなの八つ当たりなのはわかるけど、でもこう考えなかったら私もどうかしてしまいそうで。
綺麗な薔薇一本を見つめて応える
「薔薇なんていらないよ、特に貴方からなんて」
その返答を聞いた貴方はいつも笑ってる彼とは思えない悲しそうで寂しそうな表情をしてた。
「そうか、すまない
僕の勘違いだったみたい」
彼の悲しそうな表情に耐えかねて私は足早にその場を去った。
しかしなんで私に薔薇一本をあげようとしたのか、
考えても想像がつかなかった。
翌日いつもの場所に行っても彼は私にプレゼントを持ってこなかった。