1/21/2024, 10:11:14 AM
題『特別な夜』
同じ夜は二度来ない。旅の身ともなれば殊更そう感じることが多い。
同室の仲間が仄かな月あかりを頼りにカリカリと走らせる羽根ペンの音だけは、どの土地でも変わらぬ音だった。
そのお陰で耳にこびり付く剣戟はかき消され、退屈な座学をやり過ごすように目を瞑れば過去の亡霊を見ることもなく、眠りに落ちるのはあっという間だ。
1/21/2024, 10:01:45 AM
題『海の底』
「海の底には何か眠っているのだろうね?」
揺らめく波間を見据え、学者は言う。
思い描くのは先人たちの遺産か、まだ見ぬ地の先か。
水面のような、かつて仲間が手にした海色の宝玉のような、同じ色の瞳がきらりと光る。
「……さてな」
盗賊は手の届かない財宝になど興味がないとばかりにぼそりと呟く。
腕はたったの二本で、片方が塞がれば残りはひとつきりなのだから。