題『特別な夜』同じ夜は二度来ない。旅の身ともなれば殊更そう感じることが多い。同室の仲間が仄かな月あかりを頼りにカリカリと走らせる羽根ペンの音だけは、どの土地でも変わらぬ音だった。そのお陰で耳にこびり付く剣戟はかき消され、退屈な座学をやり過ごすように目を瞑れば過去の亡霊を見ることもなく、眠りに落ちるのはあっという間だ。
1/21/2024, 10:11:14 AM