#波にさらわれた手紙
秘めた思いが秘めきれず、
溢れる気持ちを文字に起こし
5枚の用紙に納めた。
溢れる気持ちは止まったが、その紙を
破ることも、捨てることもできず…
だが、知り合いが目にすれば確実に解る。
途方にくれていたその時、
前方からやって来る大量の人の波
避けるのに避けきれず、ぶつかっては謝るを繰り返す
そして、気がついた。
先程まで握りしめていた手紙がない
……あぁ、ありがとう
#涙の跡
それを目にしたのは、偶然だった。
いつもの塾の帰り道、
クラスのヒエラルキートップに君臨している
私、可愛いから何でも許されるよね?系女子『秋月』
あれは他校の生徒だろうか?無理矢理に腕を組んでいる
ウザがられている空気が流れているが、
わかっていないのか、わかっていてわざとなのか…
後者だろうな。
それでもめげずに行けるメンタルには喝采を送りたい
しばらく見ていると、何かを言われたらしく
秋月は、その場に呆然と立ち尽くし
他校生は行ってしまった……。
このまま進むと秋月の前を通ることになる。
だが、我が家は進まないとたどり着かない。
無だ!!無になって、真っ直ぐ前を見て通り抜けろ!!
だが、古今東西 見るな、開けるな は、
成功した試しがない。
案の定、過ぎ去る瞬間チラリと視線を向けると
睨みつけた瞳と目があってしまった。般若だ!!
それにしても、涙の跡…………黒ッ!!!!
#揺れる木陰
セミの大合唱が響く夏の暑い日……
あの頃、この閉鎖的な空気が大嫌いで、
高校卒業してすぐに、遠い地に就職
がむしゃらに、居場所と仕事に没頭した。
ただ、時々 ふっと目に付く『人工的』に作られた
公園の木々が作り出す『自然』を目にしたとき、
無性に込み上げる。何か―――
ぐっと奥歯を噛み締めて、
目の端に盛り上がろうとする水分を、
瞬きを繰り返すことで追い払う。
子どもたちの楽しそうな声を背中に、
揺れる木陰を眉を下げた羨望の眼差しで睨みつける
#夢見る少女のように
『ま、さきッさん…?真希さん!!来てくれたの?やっと、来てくれたのね。私待ってたのよ』
『……母さん、俺はまきだよ。あんたの息子の…、真希だよ』
このセリフを何度口にしたことだろう。
小さい時は、まだ正気に戻る間も長かった、
この頃、俺は似てきたのだろう。
来もしない、父親とは名ばかりのクズに………
ただ、母の顔を見ると、言えなかった。
その瞳はまるで、夢見る少女のようで
#傘の中の秘密
テストが近づくと立ち寄る町の図書室…
窓から見える景色は、一面のアジサイ
ふっと視線を上げた先に、
話したことのないクラスメイト
わざわざ雨の中、紫陽花を見に来たのかと
手元に視線を戻そうとした一瞬、
涙が流れるのを見てしまった。
慌てて顔を上げるが、もうその顔は深く
傘に隠れていた