#紅茶の香り
「専務、こちらは?」
「後で目を通しておくから、そこにおいといて」
やっとここまできた、何もかも全てを捨てて···。
それなのに、ふと香ってきた匂いに引き戻される。
「頂き物なんですけど、たまにはコーヒー以外もいいかと思いまして···、どうぞ」
〖姉ちゃん、友達から紅茶のパックもらったんだ!〗
四畳半のぼろアパート、二つ年の離れた弟
遅くまで親は帰らず、私が親代わりだった。
始めていれた安物の紅茶は、
決して美味しいとは言えなかった。
「ありがとう······· はぁ、おいしい」
#涙の理由
私の専門は遺伝子工学
あの日は酔っており、友人とふざけて
ティンカー・ベルでも作ってみよう!!
今ではいったい何をどうやって作ったのか···
地獄のような二日酔いと戦った後の出社
ラボの培養水槽の中に彼女は誕生していた。
羽はないが、サイズは手のひら、いくら育てても
それ以上大きくなることはなかった。
発表はしなかった。そうした方がいい気がしたからだ
彼女はまだ言葉を話さない。
こちらの言っていることは理解している。····たぶん
そんな彼女が満月の日に時おり涙を流す。
研究者と言うものは理由を知りたがる、悪いクセだ
だが願わくば、彼女の口から直接理由が知りたい。
#束の間の休息
はぁ、はぁ、はぁ···ここまで来たら
逃げ切れただろうか···?
すきまへと逃げ込み、モンスターからの
束の間の休息
行けるかと、機をてらい いざ!!
「お母さん!!!!!!!!ゴ○ブリ!!」
#力を込めて
通夜も葬式も終わり、脱け殻のように
自宅のいつもの席に座り込んでいる。
不意に電話が鳴った。
メモを取るため、そばにあったメモ帳を引き寄せた
時が止まった···。
折り返すと言い、電話を切る。
メモを薄く鉛筆で塗りつぶしていくと、
〖結婚式楽しみ 絶対幸せにする〗
浮き出てきた文字に、
「筆圧、強すぎ」
#踊りませんか?
街灯ひとつない満月の美しい夜だった
言葉はない、ただ手をさしのべて
恭しく一礼している
一度手を伸ばすが、戸惑い引っ込める
辛抱強く待つ相手に
身を委ね
手を差し出す
シルエットのみだが、楽しそうに優雅に踊る
12時の鐘が鳴り響く ·············ガチャ
「影絵で遊ぶの禁止って言ったでしょ?明日学校!!」
Shall we dance?