カラフル(難しかった)
リー・エンフィールドを携えて狩りに出かけ、獲物を仕留めて家路につく。
肩に担いだ狼はズタボロで毛皮はあまり使えなさそうだ。
十年も続くこの冬では弱り果てて食われることだって少なくはない。
生きる為には仕方ないし、生きているのなら仕方ない、この世界の普通なのだ。
二時間かけて帰った家を見ると、私は必ず雪に埋もれてしまったレンガ道を思い出す。
道は地平線よりも先まで続き、黄金の城へと案内してくれていた。
だがそれも十年前の話、あれはもう過去の栄華のことだ。
雪と風と年月はあれらを容易く風化させてしまう。
最後に見たのは何十年前だったのだろうか?
少なくとも、私はあの荘厳な黄金の城とは正反対な質素で飾り気のない丸太小屋に住む狩人でしかない。
甲冑の漆色、栄華の黄金なぞ伝聞の存在。
極地の白色、寒木の茶色、暖炉の赤色だけが私の世界だった。
そう、だったのだ。
私の恋人が遺したたった一人の娘。
彼女は私に色というものを教えてくれた。
「パパ、帰ってきたの?」
「ああ。 毛皮は使い物にならんし、肉も少ないがな。 ……シャルロット、また編み物か?」
「うん! 完成したら見せてあげるから、まだ秘密!」
私が知っている色は白と茶と赤だけだった。
だが、私の娘――シャルロットは私に青や緑を教えてくれた。
交易で手に入れた毛糸を上手に編み、手袋や帽子を編み上げるのだ。
色というのはただそこにあるだけではない。
組み合わさり視覚で物語を奏でる、それこそが色なのだ。
残念ながら、シャルロットが編んでくれた帽子はカラフル過ぎて狩りには持っていけない。
だが、私は初めて色を理解できた。
そして、私の恋人の想い――愛を少しだけ理解できた気がした。
刹那
分からなかった。
眼前の光景が、雪原の色が。
私は目を離していなかった、ただ瞬いただけだった。
心臓の音が早まっていき、段々と痛くなっていく。
名前を呼ぼうとして、ふとコイツの名前を知らないことに気がつき、口から心臓が出るような錯覚を覚えた。
「おい新入り。 こいつみたくなりたくないなら、頭を下げろ」
ハッとなって地面にぺたりと這いつくばった。
鉄みたいな匂いが鼻腔をツンと刺す。
視界が白で乱反射し、雪すら見えなかった。
すすり泣きながら理解してしまったのだ。
瞬いた刹那に、私は戦友を喪った。