貝殻

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7/2/2025, 1:28:25 PM

「クリスタル」

クリスタル、とはどうやら水晶のことらしい。
洋名か和名か、ただそれだけの違いのようだ。
だが、やはりクリスタルと聞くとギラギラと輝く宝石を想像してしまうし、水晶と聞くとどこまでも透明で、時に怪しげな雰囲気を醸し出す丸いものを想像してしまう。
言葉の響きとしても、水晶の方が好きだ。
すいしょう、と口に出してみる。
すると、頭の中と心臓に風が通り抜ける感覚がする。 
ぼんやりとしていた頭が、澄み渡る。
クリスタル。
大きなそれを買ってみたのだとあの人に呼ばれた昨日の午後。
自身の右手を見れば、もはや透明とは言い難い、少し欠けたクリスタル。
自分はどうやら、透明より黒々とした赤色の方が好きらしかった。

7/1/2025, 2:51:43 PM

「夏の匂い」

じわじわと感じる暑さと夏の匂い。 
咳き込むほど大きく吸い込めば、湿った空気が身体を満たす感覚がして、遠くを見つめる。
息を短く吐き出して、ぼんやりとした意識の中で見える景色は鮮やかな緑色だけ。
先ほどまであった濃い匂いは、何にかき消されてしまったのか。
もう一度、今度はゆっくり鼻から息を吸い込む。
夏にしかない、不思議な匂い。
どろりとして、しつこくまとわりつくそれは、あっという間に肺全体に絡みつく。
身を瞑って、息を止めた。
このままいれば、きっと夏に殺される。

6/30/2025, 1:05:20 PM

「カーテン」

薄手の真っ白なカーテンが、風を包んでほわっと膨らむ。
冷房もつけないでいた部屋に、開けた窓から、初夏の生ぬるさがするりと入ってきた。
滲みかけていた汗も乾く気がして、目を細める。
窓を遮るカーテンを横に追いやってしまえば、もっと涼しくなるのだろう。
でも。
白が大好きなのだと笑ったあの人が選んだ、カーテン。
その向こうに、誰かがいる気がしたから。
きっと、ずっとこのまま。

6/29/2025, 1:05:17 PM

「青く深く」

青く深く、綺麗な海に沈んでいきたいと思った。
深夜の海は、青というより、黒に近いけれど。
その方がいいのかもしれない。
深海は陽の光が届かないから、真っ暗。
今は、どれだけ浅い海でも真っ暗で、どこでも深海みたいだから、深く沈んでも、きっとずっと同じ色を見れる。
自分が、どのくらい沈んだかなんて、見れない方がいい。それならば、目を瞑るのも一つの手だが、海の中は見ていたい。青くはないんだろうな。
ずっと、支離滅裂でわがままなことばかり考えている。
思考の海に沈む、というのだったか。使い方を間違っているだろうか。
教えてくれた友人は、すっかり小さく白く、深海と真反対の姿になって、昼間の青く眩しい海に溶けた。
嗚呼、そうだ。昼間の海は、青かった。だから。
友人と同じでどこまでも青く、でも、どこまでも深い、ここで。

6/28/2025, 11:56:06 AM

「夏の気配」

朝、目が覚めると、ふっ、と夏の気配がした。
それだけ、ただそれだけのことに、安堵した。
蝉は鳴いていないし、室内だから太陽がひどく眩しいわけでもない。
それでも、なぜかふわりとだけ漂う夏の気配。
少し経てば、散り散りになってなくなってしまいそうな、脆いそれを感じて、短く息を吐く。
地元の会社に入って、3年目のある休日。
久しぶりに、夏をじわりと感じとれた。
確か、自分はこの空気が好きだったな、といつの日かの記憶を思い返す。
懐かしい。そうだ、ひどく懐かしい。
安堵した理由は、きっとそれ。
夏は、まだ己の知るものそのままだ。

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