「カーテン」
薄手の真っ白なカーテンが、風を包んでほわっと膨らむ。
冷房もつけないでいた部屋に、開けた窓から、初夏の生ぬるさがするりと入ってきた。
滲みかけていた汗も乾く気がして、目を細める。
窓を遮るカーテンを横に追いやってしまえば、もっと涼しくなるのだろう。
でも。
白が大好きなのだと笑ったあの人が選んだ、カーテン。
その向こうに、誰かがいる気がしたから。
きっと、ずっとこのまま。
「青く深く」
青く深く、綺麗な海に沈んでいきたいと思った。
深夜の海は、青というより、黒に近いけれど。
その方がいいのかもしれない。
深海は陽の光が届かないから、真っ暗。
今は、どれだけ浅い海でも真っ暗で、どこでも深海みたいだから、深く沈んでも、きっとずっと同じ色を見れる。
自分が、どのくらい沈んだかなんて、見れない方がいい。それならば、目を瞑るのも一つの手だが、海の中は見ていたい。青くはないんだろうな。
ずっと、支離滅裂でわがままなことばかり考えている。
思考の海に沈む、というのだったか。使い方を間違っているだろうか。
教えてくれた友人は、すっかり小さく白く、深海と真反対の姿になって、昼間の青く眩しい海に溶けた。
嗚呼、そうだ。昼間の海は、青かった。だから。
友人と同じでどこまでも青く、でも、どこまでも深い、ここで。
「夏の気配」
朝、目が覚めると、ふっ、と夏の気配がした。
それだけ、ただそれだけのことに、安堵した。
蝉は鳴いていないし、室内だから太陽がひどく眩しいわけでもない。
それでも、なぜかふわりとだけ漂う夏の気配。
少し経てば、散り散りになってなくなってしまいそうな、脆いそれを感じて、短く息を吐く。
地元の会社に入って、3年目のある休日。
久しぶりに、夏をじわりと感じとれた。
確か、自分はこの空気が好きだったな、といつの日かの記憶を思い返す。
懐かしい。そうだ、ひどく懐かしい。
安堵した理由は、きっとそれ。
夏は、まだ己の知るものそのままだ。