怖がり
怖がりな君に あめ玉をひとつ
ほどけた柔らかさ 甘ったるい香り
とけて ゆらいで 飴細工
怖がりな君に 明日をひとつ
包み込む優しさ 透き通った陽の光
ゆれて ゆらいで 布の内
怖がりな君に 言葉をたくさん
前も後ろも ぎゅぎゅっといっぱい
触れて 包んで ハードカバー
怖がりは優しさ 君の臆病はきっと愛
その透明な愛が いつか誰かを包みますように
怖がりは慈む心 「大切にしたい」の裏返し
君が恐る恐る紡ぐ言葉が いつか誰かの光になりますように
大丈夫だよと 無理に笑う君
奥に仕舞いこんだ 恐怖と我慢
優しく光をあてて 溶かしてあげる
明日はきっと 怖くない
星が溢れる
ハロー、ハロー。聴こえますか?
こんばんは、あるいはおはようございます。時刻は深夜1時を回りました。
──これから就寝の方も、そうじゃない方も、少しだけチルタイム。
今夜も始めていきましょう、『真夜中通信』周波数が合いました。
***
改めましてみなさんこんばんは。案内人の△△です。この番組は自然保護地区天文部と中央放送電波管理部の協力でお送りしております。
いやー今日もいい天気でしたね。みなさんお昼外出ました?
まぁ深夜帯の旅人たちはたぶんあんまり外でないのかなーとは思うんだけど。ほら、今書類物の締切がたくさんあるでしょ?それで外出たんです。郵送でも良かったんだけど、ちょっと提出期限ギリギリで(笑)
1歩外出て、うわぁってなりました。そう、「うわぁー」って。
──暖かいんですよ!
気づいたら春なんですよ。言われればそうなんですけど、今日それをやーっと体感しました。自然保護地区とか行きました?木々に色彩が戻ってきてましたよ。春の色合いってすごく綺麗ですよね。
では、一通報告書を。あ、報告書って言うのは「おたより」ってことね?初めての人はびっくりしちゃうからね、別に仕事ではないのですよ。あ、ちなみに、リスナーのみなさまは「旅行者」です。そういう設定です。星星を旅する中でたまたま周波数があった通信、というコンセプトでやっております。
で、報告書ね。
『△△さん、旅行者の皆さん、こんばんは。』
はい、こんばんは。
『今日星を旅してて見つけたことなのですが、道端にオオイヌフグリとたんぽぽが生えていました!太陽が眩しくて前を向いてなかったのですが、下を向いて歩くのもたまには悪くないなと思いました』
ということで。いいですね、オオイヌフグリ。春の花…でしたよね確か。青くて小さくてい〜っぱいぎゅっとなって咲くやつ。残念ながらここには自生してないので本物は見た事ないんですけど。日本の花でしょ、図鑑で読みました。タンポポもいいですね、黄色くてかわいい。春って案外足元から始まるのかもしれないですね。
星と星が交わるひととき。そろそろお別れのお時間です。
寂しがらず、次に繋がる時またお会いしましょうね。
この番組では旅行者の心から溢れた言葉を集めています。内容はどんなものでも大丈夫。皆様の報告書を楽しみにお待ちしております。
宛先は星詠町、3-5-9流星塔カシオペアまで、レポート用紙は読めるものなら書式も色も問いません。
それではみなさま、おやすみなさい。
もっと知りたい
踏み込まれる度に同じだけ後ろへ下がった。正面から向き合おうとする相手に失礼だと知りながら、どうしてもその目を見つめ返せなかった。「教えて?」と問われる度に「これで全部」と嘘をついて、ありがとうねと話題を逸らした。
***
邪魔をするのはいつだって過去の自分自身だ。領域を無遠慮に踏み荒らされたこと。まともに取り合ってもらえなかったこと。優しさを振り払ってしまったこと。押し付けられた義務感と上辺だけの親切心。強くいなければならなかったこと。気づけばいつも一人だったこと。そのうちそれを進んで選択するようにしていたこと。
廃品回収の来ないゴミ捨て場に溜まったそれは未だ重く存在を主張している。
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「いいよ、どうでも」
「よくないよ」
何度目かの押し問答にうるさいな、と叫びそうになるのを必死に抑えて「わかったよ」とだけ返した。分かったならいいと矛を収めた相手に小さな罪悪感を覚えて思わず首を抓る。今が夜で、君が正面にいなくてよかった。こんなところ、絶対に見せられない。手はそのままに硬い声を無理やり柔らかくしてありがとうねと退避路を作る。己の行動はどこまでもおぞましくて、同時に優しい言葉を真っ直ぐ受け止められる心の綺麗さはもう随分前に失くしてしまったことを自覚した。
知りたいと踏み込む1歩が大きな勇気を伴うことは知っている。
それなりの覚悟があって正面に立たれているのも分かっている。
離れていかないという言葉を信じたいとも思っている。
確証は無い。経験もない。成功体験もない。再演なんて耐えられない。それでも、君を手離したくない。
──それなら、この先も抱えるのは一人でいい。
汚い嘘は知らないまま幸せでいてほしい。
知りたいことは、教えてあげられそうにない。
たった一言の救難信号の出し方すら、もう私には分からないのだ。
平穏な日常
何事もなく、まっすぐで、安定していて、日当たりの良い日々。
気づけばそんなものを夢見ている。
1歩進んでは抱えた荷物を取り落として、拾い上げたら壁にぶつかって、前を見れば先の見えない曲がり角。紆余曲折と歩いた道のりは思い出せないくらい複雑で、そういえばしばらく太陽も見ていない。
「予定外ばかりで楽しいね」
トラブルばかりでも、落し物が多くても、坂やカーブが多くても、「平穏なんてつまらないよ」と笑い飛ばして傘を片手に進んでいこう。