ないものねだり
どうしよう!
わたしやっぱり
月がほしい!
特別な存在
『だれかのいちばんになりたいです』
幼い頃に書いた何かの感想文だ。王子様がお姫様を選ぶように、ヒーローがヒロインを選ぶように、バディが相方を大事にするように、物語の中で唯一無二になる2人に憧れていた。
学校のお友達は2人組になる時自分を選んでくれると思っていたし、親友だよって笑った子はクラスが離れても遊んでくれると思っていた。期待してるよと言ってくれた先生は結果を見て褒めてくれると疑わなかった。
──随分と長いこと、そう信じていた。
言葉はどこまでも軽くてその場しのぎでどうとでもなること。期待と無茶振りは使い勝手がいいだけだってこと。唯一無二の相方なんて創作の中だけだということ。そうしてそれを知っていて尚、それに憧れてしまうこと。諦めるには少し名残惜しくて、だけど捨てるしかなかったもの。
いつしか他人を見ようともしなくなって、己の特別はいつの間にか無機物に埋め尽くされていた。言葉を持たないぬいぐるみ。物言わぬ一眼。世界に溢れかえる音楽。1冊の本。波打ち際に打ち上がったガラクタのように部屋に散らばる「特別」は、今日も微動だにせず傍に転がっている。
バカみたい
報酬もないのに一生懸命考えてて。
一銭にもならないのに全力で取り組んでて。
ハブられない為にわざと馬鹿なフリして。
この歳にもなってこんなミスするなんて。
俺ばっかり君のこと好きみたいで。
私ばっかりあなたのこと考えてて。
友達もいないのに行きたい場所ばかり夢見てて。
自分だけ真面目に規則を守ってて。
超えちゃいけないラインだと思いながらも拒否ができなくて。
過去にずーっと縛られていて。
辛いと言いながら乗り越えようともしないなんて。
上手く生きるためだって嘘ばかりついていて。
たいした目標もないのに生きていて。
辞めたいと言う割に全てを終わりにする勇気がないとか。
今更「幸せになりたい」とか。
「やり直せたら」なんて不可能なことを考えるとか。
「死にたい」と言うばかりで決心もつかなくて。
たった一言、「生きたい」と言うのが怖いなんて。
──バカみたい。
二人ぼっち
──世界が、嫌いだ。
歩いてきた道のりに禄なものはなかった。強制された感情、押し付けられる理想、平気で人を踏みにじる輩。その他反吐が出るような「普通」等々。
辛うじて持っていた灯りはどこかの曲がり角で捨ててしまった。見通しの悪い悪路に辟易しながら同時に何も見えないことに安堵してい自分がいる。とうに外れた「正解」の道が時折交差して、その度に少し惨めな気持ちを覚える。選んだのも進んでるのも己だと言うのに。
「こんばんは」
暗がりから、細い声がした。マッチの灯りがぼうっと揺れてすぐに消える。少しだけ見えた相手の瞳は美しかった。
「どうして、こんな場所に」
「どうしてでしょうね」
「ここはあまりよくない」
「知ってます」
「それなら」
「帰り道がある?」
──答えられなかった。どこまでも人間らしい押し問答は久しぶりで、少しだけ高揚した。どんな理由であれ、この場所に話のできる生命がいたことはない。透き通る瞳の奥に隠されたモノを知りたくなった。「同じ」なのか「似ている」のか。それとも「違う」のか。気がついたら言葉がこぼれ落ちていた。
「良ければこの先、一緒に歩きませんか」
「稀有な人。でもいいですよ、飽きるまでついてったげる」
灯りも持ってないの、と笑ったソイツはマッチを1箱こちらに差し出してきた。
「束の間の光は何かと便利だから」
ふいに、前方から明るい声が聞こえてきた。白くて明るい道が交わっている。ガードレールの先を通る人々はこちらを見もしない。人々の笑顔が全て仮面に思えて、黒いモノが胸の奥にたまる。
「気持ち悪い」
口に出したつもりはなかった。だけど、聞こえてたはずなのに隣は何も言わなかった。
「……ごめん」
「何が?」
沈黙に耐えかねて──或いは正しいコミュニケーションを思い出そうとして──謝罪をすれば、想定外だとでも言うような声が返ってくる。
「他人は他人ですよ」
それはどこまでも冷たくて固い響きだった。
「もし、帰り道が見つかったら」
しばらくの沈黙の後、先程の話がなかったかのように隣が言う。
「ちゃんと帰ってくださいね」
「嫌だ」
「なんでですか」
「初めて、居心地がいいと思ったから」
「……」
「一緒に歩きたい」
「……」
「だめ?」
馬鹿なんですか、と言う呟きは聞こえなかったことにして誤魔化すようにマッチに火をつける。
薄暗い火のもとに晒された相手の目は、やっぱり綺麗だった。
夢が醒める前に
「」