鍵のかかる箱に、日記を入れていた。
それが小さかった頃の、わたしの秘密。
アンネ・フランクの日記に影響されて、居もしない親友に宛てて日々を綴っていた。
毎日、お酒を飲んで、兄を怒鳴り殴る父。
毎日毎日、わたしの目の前で、3時間は続く。
母は素知らぬ顔で部屋から消えている。
わたしは兄が殴られなかった日を記録しようとして、1日もないことに気がついた。
何年続いただろう。本当に1日も途切れなかった。
自分が殴られるより恐ろしかった。
目の前で兄が暴力を振るわれ続けるのは。
きょうはつらかったけれど、あしたはきっときょうよりひどいから、きょうはまだ、しあわせ。
呪文のように同じ言葉が並ぶ日記。
暴力が兄からわたしに向いた頃、わたしは、秘密の箱ごと、日記帳を庭で焼いた。
【秘密の箱】
期間によるよね。
友の問いに僕は答えた。
少しの間、リゾートで行くなら、気候にもよるけれど、水着や着替えや道具を持って、のんびり泳いだり、釣りをしたり、本を読んで過ごしたいし。
長期間帰れない、ロビンソン・クルーソーのような状況なら、頼れる友を連れて行って、一緒に無事に帰りたいよね。
その前に、衛星通信ができない環境に居られるだろうか? 具体的には、スマホなしで生活できるのかな。
料理も暮らしもみんな今では検索しちゃうもんね。
僕の答えに友は笑った。
お前は現実主義だなあ、と。
もっと夢のような回答を期待していたようだった。
【無人島に行くならば】
昨日までの暑さが嘘のようだ。
今日は僕は毛布にくるまっている。
洗って干して、冬に備えるはずだった毛布。
秋は暦の上に足跡だけ残して去ってしまった。
清々しい空、心地よい風が恋しい。
天高く馬肥ゆる秋。
秋の日はつるべ落とし。
そんな言い回しも今や聞かなくなった。
この世界から、秋が消えていく。
さあっと風が季節を撫でるように、夏が過ぎて冬が顔を出す。
【秋風】
ばさっと音がして、誰も触れていないのに、本棚から本が落ちた。
あれ、入れ方まずかったのかな?
最初はそう安易に思った僕だが、落ちた本を見て息を呑んだ。
アルバムだった。
落ちた衝撃で開いている。
そこには、この世にはもういないじいちゃんの笑顔。
じいちゃんの写真が、おさまっていた。
じいちゃんが何か言いたいのかな?
オカルトは信じないけれど、何となくそう感じた。
僕はアルバムを直して本棚に戻した。
コンビニにいこうと思って羽織った上着を脱ぐ。
今夜はいいや。出かける気が失せていた。
翌朝、そのコンビニに深夜、トラックが突っ込んだというニュースが入ってきた。
じいちゃん、ありがとう。
【予感】
小学校の友人と再会したのは高校の時、最寄り駅だ。
偶然の再会で、こんなこともあるのかと思った。
その友人に縁を切られたのは、わたしが成人の頃。
毒実家から家出した時だ。
学費を出して貰えているのに贅沢だと怒っていた。
わたしは家庭でのことは余り話していなかった。
人付き合い禁止、友人禁止、くらいかな。
部活もバイトも禁止とは友人に伝えていないと思う。
わたしの夢は全て潰し、世間体が大事だという親。
病気になれば怠け病と罵倒して放置。
傷んだ食事を食べさせられ、門限は厳しい。
DVだって毎日3時間くらい続いた。
謝ると何がごめんなさいだと殴られる。
生まれてきたお前が悪いと責められる。
もっとひどいことも言われた。
わたしは病み、それでも大学を留年せずに卒業した。
その後、ひょんなことでまた友人とご縁が繋がった。
今でもその付き合いは薄く長く続いている。
友人に感謝しかない。
【friends】