高砂に座る二人を見る。
どちらも知ってる人物たちだ。
順風満帆、てなこともなかった二人だったけど、漸く落ち着くべくして落ち着いた感じだ。
俺は新郎友人席に座り、少し離れた新婦友人席には同じように俺の友人でもある新婦友人が座っている。
彼女は優しく目を細めて高砂の二人を見つめていたけど、ふと視線がこちらへ向けられ、目があった。
途端に彼女は眉をハの字に下げ、苦笑いを零した。
その理由を俺は知ってる。
そして同じような表情をしているだろう俺のその理由もまた彼女は知ってる。
友人代表スピーチで彼女と並び、自分たちしか知らないような楽しげなエピソードを少し織り交ぜながら話す。
そして最後に、並ぶの隣の彼女と声を合わせて
『本当におめでとう!お幸せに!』
と音が割れない程度の少し大きめな声で、締めくくる。
「じゃ、またね」と軽く会釈して互いの席に戻った。
スピーチ中、視界に入る壇上の二人に胸がチクリチクリと痛むことを無視した。
ちゃんと笑えていただろうか。
正しく笑えていただろうか。
そこに一抹の【黒い】感情なんて浮かんでなかっただろうか。
胸を刺すチクリチクリと痛むそれを無視するように、余興に笑い、隣席の出席者たちと酒を酌み交わす。
キャンドルサービスでやって来た寄り添う2人に「おめでとう。もう俺らに迷惑かけんな」なんて軽口叩いて、「ありがとう。それは無理!」なんて軽口で返されて。
あぁ。
ほらまた。
痛い。
ちゃんと祝福してる。
ちゃんと喜んでる。
ちゃんと…。
滞りなく終わっわた披露宴。
後ろでは二次会の話で盛り上がっている。
遠方への出張があるからと二次会のへの不参加は表明済み。仕事を理由にした事に少しの罪悪感を感じながら、「じゃぁまたな。呑み過ぎんなよ」なんて二次会に残る友人たちに伝えて、踵を返す。
視界の端に今日の主役たちと俺の友人の彼女が入った。
引き出物の入った紙袋から新婦から受け取ったブーケが覗いていた。俺の胸ポケットを彩る同じモノ。
綺麗でカワイイそのブーケの行き先をなんとなく察する。
綺麗なのにキレイに受け取れないソレ。
だってそれは君にも俺にもイラナイモノ。
だって俺たちの恋は、今日をもって終わったのだから。
2023.6.4/失恋
ただ正直に伝えられたら と思う
嘘偽りのないこの想いを
ただ正直に真っ直ぐ投げかけられたら と思う
でも
バカ正直に伝えることなんて恐ろしい
負け戦なんてしたくない
傷つくくらいなら
傷つけてしまうくらいなら
いっそこの想いに蓋をしよう
それでも
それでも
溢れてどうしょうもなくなってしまうなら
その時は
傷ついても
傷つけても
真正面から正直に伝えよう
『君が好き』
2023.6.3/正直
シトシトよりももっと細かくて
傘をさしても意味がなくて
ミスト状の雨は
静かに僕らを濡らしていく
視線の先に
楽しそうに嫌がりながら
「この雨マジうぜぇ」
なんて笑いながら歩く君の後ろを行く
おもむろに立ち止まった君は振り返って
袖を捲くりあげ晒しだされたその腕を
こちらに伸ばす
「早く帰ろうぜ」
伸ばされたその手を取ることに
躊躇う僕の手を
彼は強引に、それでいて優しくとり、指を絡める
向けられた眼差しに
想いが溢れてしまうかのように
知らずキュッと力が入れば
キュッと握り返されて
一歩
踏み出し
同じ速度で歩きだす
近くて遠かった僕たちは
2023.6.20/梅雨