再会の日、君は春の空を見上げていた。僕は君の横顔を眺めた。君の耳元で揺れる真珠が、少しの間、時を忘れさせる。
挨拶の言葉も交わさずに、そのままでいた。
でも、空の色は変わらず、期待と失望が無言の中で淡く消えそうになる。
君は僕を見つめ返した。僕は真珠から視線を離し、やっと口を開いた。
「やぁ、元気だった?」
「元気よ。あなたも?」
「うん、いろいろあったけど」
そして、空は桜の花びらで色づき始めた。
「元気かな」
彼女は17番カラー「遠い約束」と名付けられたリップを塗り直した。その色は、心を映すみたいに、付ける人の体温でほんのりと神秘的に変化していく。
「約束…」
鏡の自分をじっと見つめる。思考が取り留めもなく流れてくる。
あの約束は、遠くに行ってしまったのかな。その約束を果たすための努力には意味があるのかしら。
可能性の問題かもしれない。
何度も頭の中で考えめぐらし、思考だけでは何も見えてこないことに気づいた。
意識して口角を上げ、鏡の中に笑顔を作る。リップの色が可愛い。
それから、リップをポーチの中にしまい、約束を信じてみようと決めた。
「遠い約束」
そのむかし、フラワーという言葉は、植物全体を指していたんだ。
時が経って人々は南に北に旅立つと、南に住み、美と愛を求める人々は、植物の花の部分をフラワーflowerと呼ぶようになった。一方、北に移動した人々は、植物の役割に食べものと幸福を求めて穀物をフラワーflourと呼んだ。
言葉の変遷は、それぞれの心の風景を映し出していくのさ。
「フラワー」
「ねえ、ママ、あのグルグルのお日さまみたいな木は、なあに?」
ペターポは、目の前の不思議な木を見て、ママに尋ねた。
「ペターポ、あれはね、あなたの将来の地図よ。あの木の枝を見てごらんなさい。たくさんの枝が伸びているでしょう。ペターポが大きくなって、色々な経験を積んで、夢を抱くようになると、自然と新しいイメージが湧いてくるの。そのとき、枝はどんどん分かれて、無数の道ができていくのよ。あの木は、あなたの人生がどれだけ多様で、豊かなものになっていくかを示しているの」
それを聞いたペターポは、なんだかよく分からなかったけど、その枝を広げて、自分の新しい地図を育てていこうと思った。
「新しい地図」
西鳩シェフは、高級レストラン「fête d’ étoileフェデトワール」の料理長として目を見張るような豪華な料理を作り続けている。その料理は芸術作品のように美しく、魔法のように熟成された高級ワインと共に、客単価8万円を超えることもしばしば。
そんな華やかな西鳩シェフも、自宅のキッチンでは高級食材を使うことない。
近くのスーパーから手頃な価格のビーフを選ぶ。
そして、どの食材にも心を込め、焼き方やソースにシンプルながらも独自の工夫を凝らし、素敵な一皿を作り上げる。
心温まるご馳走だ。キッチンには彼の料理愛が広がっている。
シェフの家族や友人を囲む自宅食卓で、彼の家庭料理からみんなの嬉しそうな笑顔が生まれる。
西鳩シェフは、料理を喜ぶ人たちの姿を眺めることが大好きなのだ。
「好きだよ」