空は彼方で引き上げられ、のし掛かり、そして彷徨う。
それはレジデンスの窓から辿る不確かな返事。
物音は机の小さなコーヒーカップに飲み込まれて消えていく。
通りでは晴雨兼用の傘が曖昧な無表情さで空に向けられていた。
「あいまいな空」
陽光に木々の緑が深まり
あじさいが鮮やかなピンクに艶めく。
6月のノルマンディに咲く
華やかなあじさいが元気をくれる。
これらのあじさいが海底に沈んでしまうなら
きっと寂しく美しく青ざめてしまうだろう。
このまま色褪せぬ限り
海底に潜む姿は見えぬまま
心の奥深くに咲き続ける。
「あじさい」
真夏日の街で暑さに負けずに挨拶をかわす人々。だけどみんな疲れている。
イケメン猫は夕涼みにストリートでチェロを繰り出し弾き始める。
すると周りにチラホラと人が寄ってくる。
チェロの音色で心に風を感じ人々の疲れも癒やされるんだ。顔つきも穏やかに変わっていくのが伝わってくるね。
でも聴衆の中に不機嫌な存在がいた。それはナマズ君。人間の姿をしているけれどイケメン猫には彼がナマズだと分かる。
この暑さで不満を募らせた人々の怒りを受けて、ナマズ君は本当に怒っていた。
イケメン猫は即興でナマズ讃歌を静かに奏でた。そうするとナマズ君も少し気持ちが落ち着いたようでへの字口で立ち去って行ったんだ。
明日はきっと地震もないだろう。
ナマズ君がいなくなった後イケメン猫はフォーレの「夢のあとに」を奏でたというわけさ。
「街」
イケメン猫の僕はお料理好きなんだよ。
いろんな国のお料理をマスターしたいんだ。
ゆくゆくは野菜中心の新しい創作料理を夢見ちゃうね。
その国の文化も知ることが出来て食卓が彩り豊かになって美味しく幸せになれるもの。
料理もアップデートしていかなきゃね。
「やりたいこと」
イケメン猫はこんな夢をみた。
お月様は人魚姫の叶わぬ想いを哀しく知って涙を流した。
涙は月色に発光してキラキラと海へ降ってくる。
人魚姫のからだを光で包んであげたんだけど、月から離れてしまったその涙からは少しずつ煌めきが失われていく。
人魚姫は今にも海の泡となって消えてしまいそう。
その時お日様が顔を出して海を温かく照らしてくれたんだ。
朝日の温もりで人魚姫は命を吹き返し人魚の国へ帰っていったの。
王子との恋など何もかも忘れてしまって。
お月様の涙にも明かりが灯されて空に浮かんで月に戻っていったんだってさ。
「朝日の温もり」