「空はどうして泣くの」
雨がふる中、公園のベンチでびしょぬれになりながら一人すわっていると、“かさ”をさした一人の小学低学年ほどの女の子が近くまでよって来た。
「空にのぼった“すいじょうき”は、冷やされて小さい水や氷の“つぶ”になる。小さな氷の“つぶ”や水の“つぶ”がくっつきあって、雲がだんだん大きくなると、雲の中の氷の“つぶ”が大きくなって、重くなり、雨となって落ちてくる。そして 落ちてくる時、“とちゅう”でとけて水にかわったものが雨だよ」
「あなたはいつもむずかしい話をするね」
女の子は“むひょうじょう”のままジッと雨にぬれる僕を見つめた。
「みんな、あなたを落ちついていて、頭がいいっていう。でも、私が聞きたいことにはこたえてくれない。あなたにも空が泣く理由は分からないの?」
「……空が泣くのは、雨がふってるから。誰の目に見えない雨が、ずっとふり続けてるから」
「私には見えるよ」
「空が泣くのは、自分だけはなれた“ばしょ”にいるから」
「空は近くにいるよ」
「空が泣くのは、みんなと“ちがう”から」
「一緒にかさの下に入れば、他のみんなと同じだよ。でも、かさの下の空は空で、同じになるひつようはないんだよ。だから、家にかえろう。そして明日も学校で会おうよ」
まるで他人事のように話をする僕に、女の子はそう言って手を差し伸べた。
気付けば空は泣き止み、太陽が姿を見せた。
「雨は、やんだ?」
「うん、止んだ」
晴れた空の下で“傘”を差し、空が流した涙の跡の上を、“無表情”だった僕と君は笑いながら駆けた。
──────『空がなく』
命が燃え尽きるまで。
目を覚まし 夜に眠る。
命が燃え尽きるまで。
欲を満たし また何かを欲する。
命が燃え尽きるまで。
疑問を抱き 思考する。
命が燃え尽きるまで。
時に立ち止まり 再び歩き出す。
これらが出来なくなった時、人は“生”を実感出来るものなのだろうか。
先に失うのは“命”か“心”か。
人が何を思おうが先に心を失おうが、命という名の灯火は今日もただ静かに揺れる。