梅永 翼

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「空はどうして泣くの」

雨がふる中、公園のベンチでびしょぬれになりながら一人すわっていると、“かさ”をさした一人の小学低学年ほどの女の子が近くまでよって来た。

「空にのぼった“すいじょうき”は、冷やされて小さい水や氷の“つぶ”になる。小さな氷の“つぶ”や水の“つぶ”がくっつきあって、雲がだんだん大きくなると、雲の中の氷の“つぶ”が大きくなって、重くなり、雨となって落ちてくる。そして 落ちてくる時、“とちゅう”でとけて水にかわったものが雨だよ」

「あなたはいつもむずかしい話をするね」

女の子は“むひょうじょう”のままジッと雨にぬれる僕を見つめた。

「みんな、あなたを落ちついていて、頭がいいっていう。でも、私が聞きたいことにはこたえてくれない。あなたにも空が泣く理由は分からないの?」

「……空が泣くのは、雨がふってるから。誰の目に見えない雨が、ずっとふり続けてるから」

「私には見えるよ」

「空が泣くのは、自分だけはなれた“ばしょ”にいるから」

「空は近くにいるよ」

「空が泣くのは、みんなと“ちがう”から」

「一緒にかさの下に入れば、他のみんなと同じだよ。でも、かさの下の空は空で、同じになるひつようはないんだよ。だから、家にかえろう。そして明日も学校で会おうよ」

まるで他人事のように話をする僕に、女の子はそう言って手を差し伸べた。
気付けば空は泣き止み、太陽が姿を見せた。

「雨は、やんだ?」

「うん、止んだ」

晴れた空の下で“傘”を差し、空が流した涙の跡の上を、“無表情”だった僕と君は笑いながら駆けた。


──────『空がなく』

9/16/2022, 3:18:02 PM