うちのクラスには心という名前の生徒が2人いる。
彼と私。
私たちは、はっきり言って浮いている。
私は筋金入りの無口だ。
先生にあてられたときや、地震速報のサイレンが鳴ったときぐらいしか声を出さない。
だからみんなからお高くとまってるって言われてる。
だけど話さないのではなく、何を話せばいいのか分からないだけ。
私はいつもひとり。
一方、彼は過激なマシンガントーク。
平気で相手の話を遮るし、他人に興味を示さない。
みんなは彼を遠巻きにしようとするけど、彼は飛び跳ねた魚を鳥が咥えるみたいに、油断した誰かを捕まえてマシンガンの的にしてる。
私たちは「心」なんて名前をもちながら、誰とも心を通わせられない。
なんでよりによって私たちはこんな名前をつけられてしまったんだろう。
くそったれ。
僕はいつだってそうなんだな。
気分が明るい日なんて滅多になくて、いつも辛気臭い顔をしちまうんだ。背骨だって爺さんみたいに曲がってら。
かといって明るい気持ちが体の内側から滲み出るような日も良くないんだ。
この間なんて調子に乗って休日にチーズケーキを焼いたんだけどさ。そのあと高熱がでてケーキを食べるどころじゃなくなっちまったんだ。3日も寝込んだよ。
僕ってやつは、どうにも仕方がないんだな。
今日も鏡に映る僕は最後の審判を待ってるような顔をしている。どうにも仕方がないんだ。
どうせ誰も助けちゃくれないんだからさ。
だから、これからだって虚勢を張ってでも、なんでもないように生きていくしかないんだな。これが。
彼女は由美と弘子の傍を離れると夢の世界へ行ってしまう。まるで僕なんて、公園に打ち捨てられたプラスチック容器と同じだとでも言うように、彼女は僕を知ろうとしない。
ありふれたカフェに彼女と僕は向かい合って座っている。彼女はにっこり笑いながら、黙りこむ。
「何を考えているの?」
僕が声をかけた途端、彼女は口を横に結び、憮然と僕を見た。裏切った人間を非難するように素っ気なく呟く。
「由美のことを。」
「弘子のことは?」
彼女は答えない。