風と
風が木を揺らし、花弁が舞う
それが花吹雪のようで綺麗だ
風が止むと今度はゆっくりと花弁が舞い落ちる
「酒が進むな…」
花見酒を楽しむ
それが今の楽しみだ
軌跡
死のう、そう決めた時に無性に生まれ育ったあの地に行きたくなった
有り金を全て使い果たして向かったあの地
都会のように高い建物なんてほぼない
プライバシーなんて欠片もない
ドが付く田舎
そんな田舎についた
見渡す限り記憶の中のそれと変わらないその場所に何とも言えない気持ちになった
目的もなくただただ歩き回る
(ここは実家があった場所)
(この道は通学路)
(ここは小学校)
(この道は…)
ただ歩いているだけで頭に鮮明に浮かぶ懐かしい記憶
それを一個一個 確かめるように辺りを見渡しながら歩く
それはまるで自分の軌跡を辿っているようだった
ふとした瞬間
(何してるかな…)
そう思った時、デスクに置いていたスマホが短く震えた
ロック画面を見た時、口角が上がった
『何してる?』
『LINEしようかなってスマホ持ったとこ』
『うわ、相思相愛やん笑笑』
『うざ笑』
ふとした瞬間にも自分を想ってくれるって幸せだなと実感した
ーーーー
夜が明けた。
「あーあ、ボロッボロだな…」
「「師匠…」」
朝日を背負い現れた師匠
「気は済んだか?」
「どうだろ…」
「なんか…馬鹿馬鹿しくなってやめた」
俺達の言葉に師匠は「そうか」とだけ言い、両手を差し出した
師匠の手を掴んだ俺達は師匠に引き上げられて立ち上がる
「そんなもんだろ」
そう言って笑う師匠は朝日よりも眩しく見えた
どこへ行こう
社会人になりたての時は1日 働くだけで精一杯で、休日は溜まった家事や不足している睡眠で終わる
そんな生活にもようやく慣れてきたGW明け
「さて、どこへ行こうかな」
世間とはズレて取った連休にどこに行こうかとスマホで観光地を調べる
近場だと鎌倉あたりだろうか…なんて調べているだけで楽しい気持ちになる
風景
晴れた日、病院の屋上に行く
そこで適当なベンチに腰をかけるとスケッチブックを開いて鉛筆を走らせる
特にモチーフがある訳じゃないからホントに思うままに手を動かす
できあがった絵を腕を伸ばして見てみると風景画だった
花畑の奥に広がる空に空を泳ぐふわふわな雲
満足気にそれを見ていると看護師に声をかけられた
どうやら昼食の時間になっていたらしい