やさしい嘘
「君だけだよ」
そう言ってくれる彼には私 以外にも女がいる
それでも優しい嘘に騙されてあげるのだ
だっていつか本当の意味で私だけになるんだから
瞳をとじて
夕食の片付けをしていると彼に呼ばれた
「目を閉じて」
彼に言われ、素直に目を閉じる
何も見えない状況にドキドキしていると耳に触れられ、何かを付けられた
「もういいよ」
彼の言葉にゆっくりと目を開けるとニコニコ笑っている彼の顔が見えた
はい、と彼に手鏡を渡されて鏡に写る自分の顔を見ると耳がキラッと光った
よくよく見てみると前回のデートで欲しいなと見ていたイヤーカフが付いていた
バッと彼を見ると私の反応を楽しそうに見ていた
「ありがと…」
彼にギュッと抱き着くと「うん」と言って抱き締め返してくれた
あなたへの贈り物
「ただいま」
リビングのドアを開けるとリビングテーブルに真剣な表情で座る妻がいた
「どうした?」
俺の質問に「話があるの」と言う彼女のただならぬ雰囲気に息をのむ
彼女の向かいに座るとスッと小さな箱を差し出され「これ、開けて」と言われる
嫌な汗をかきながらそっと箱の蓋を開けるとそこにはエコー写真が入っていた
思わず彼女の顔を見るとニコニコと笑顔の彼女がいて、さっきまでの雰囲気とのギャップと目の前のエコー写真に余計パニックになる
「貴方と私に贈り物が来たよ」
彼女のその言葉に涙が零れた
ゆっくりと傍まで歩いて来た彼女は俺の頭を抱き締めた
彼女の腰を抱き締め、子供のように泣く
神様、俺と彼女の元へ天使を連れて来てくれてありがとうございます
羅針盤
登山で遭難しない為に必要なコンパスを今回に限って忘れてしまった
登山道がしっかりある山だ
遭難することもないだろうと意気揚々と登山を開始する
ただひとりの君へ
唯一の肉親である母が亡くなり、遺品整理をしていると『ただ1人の君へ』と書かれた封筒を見付けた
宛名は明記されていないが、肉親は俺だけだから封を開けた
中には3枚の便箋が入っていた
手紙を読み進めていくにつれて涙が溢れる
『身体には気を付けて』
そう締めくくられた手紙を握り締め、泣き崩れた
大人になってこんなに泣くとは思わなかった
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明日に向かって歩く、でも
明日に向かって彼と歩く
そう決意した
でも…怖い気持ちはある…
『同性婚』という一般的とされるカテゴリーから外れた俺達を世間は後ろ指をさすだろう
それでも俺は…俺達は共に歩むと決めた
俯く時もあるだろう、苦しむ時もあるだろう、それでも俺達は笑って明るい未来を歩んでいく