踊りませんか? 巡り会えたら
仮面舞踏会に興味本位で参加した
ウエイターから適当にお酒を貰うと壁際に立ち、少しづつ飲んでいた
「かっこいい人、私と一緒に話しませんか?」
突然 声をかけてきたのは金髪に目元を覆うような仮面を着けている
仮面の隙間からチラッと見えた碧眼がとても綺麗な人だった
暫く談笑を楽しんでいるとダンス曲が流れた
「私と1曲いかがですか?」
手を差し出すと彼女は俺の手を取ってくれた
楽しく踊る
踊った後にまた雑談ができると思っていたが、彼女は俺から離れて行った
彼女の背中を思わず追いかけてしまった
「あの!!」
「どうかされましたか?」
振り向いてくれた彼女
声をかけたものの何を話すか決めていなかった俺はどもってしまった
「また巡り会えたら…
一緒に踊ってくれませんか?」
「是非」
女性からダンスに誘うのはタブーとされている中、彼女からの誘いに俺は直ぐに了承した
俺の返事に彼女は微笑んでその場を離れて行った
奇跡をもう一度
年下の推しと結婚した私は友達や知り合いに『奇跡だね!』と言われてた
夜 推しと同じベッドで推しに抱き締められながら寝て、朝は目が覚めると推しの寝顔が見れる
こんな生活、奇跡としか言えないと私も思う
「ちぃ」
「何?」
ニコニコと楽しそうな笑顔で近付いてくる彼に洗い物をする手を止めて、顔を上げると後ろから抱き締められた
「大好き!」
「ありがとう
私も大好きだよ」
彼に軽く身体を預けて甘えると嬉しそうに笑う彼が可愛くて仕方がない
奇跡をもう1度 貰えるなら彼との子供が欲しい
たそがれ
一通りの家事を終わらせると急須に茶葉とお湯を入れる
茶葉を蒸している間に湯呑みとお盆を用意して、それぞれをお盆に乗せて縁側に行く
縁側に座ると湯飲みに急須でお茶を入れ、1口 飲んだ
ホッと一息つくとそのまま空を眺める
「母さん、今日もいい天気だよ」
話しかけるが、返事が返ってくる事はない
当たり前だ
妻は3年前に亡くなったのだから
「母さんと一緒にいたあの頃は楽しかったなぁ」
妻がいた頃に思いを馳せていると視界の端に赤いランドセルがうつり、視線を前に向けると満面の笑顔の孫がいた
「爺ちゃん!」
「おー、来たか」
よいしょ、と立ち上がった時に少しふらついてしまった
慌てたように孫が傍に来て身体を支えてくれる
「ありがとう」
「どういたしまして!」
可愛い孫の笑顔に癒される
きっと明日も
『今年も梅雨入りしました』
テレビから聞こえたその単語に「おー、今年は早かったな…」と呟いてしまった
ビルや家々を濡らす雨を窓辺から見上げる
きっと明日も雨だろう
明けない夜はないように上がらない雨はない
綺麗な青空を楽しみに今日も乾燥機に洗い終わった洗濯物を入れる
静寂に包まれた部屋
仕事を終え、借りているアパートへ帰る
いつもの時間、いつもの道
違うのはただ1つ
ガチャッと玄関を開けるとタタタッと軽快な足音と一緒に愛してやまない笑顔が出迎えてくれる
「おかえりなさい!」
「ただいま」
俺の足に飛び込んでくる愛娘の頭を撫でていると後から乳児を抱いた妻が来た
「おかえりなさい」
「ただいま」
静寂に包まれていた部屋に家族がいるだけで明るく温かい部屋に変わる