【秋風】
『今日は夕方から雨が降る予報が出ています。傘を持って行きましょう。』
今日、ニュースで雨の予報が出ていたから学校に折りたたみ傘を持って行った。
冷たくは無いが温くもない秋風が私の横を吹き抜けた。
『今日は学校の傘借りるつもり〜。』
クラスで明るい男子が傘を借りると宣言していた。
私の好きな人だ。
話したいな。
今日は一日中曇りの日だった。
夕方になっても雨は降っていなかったから、みんな急足で帰って行った。
そんな中私は部活の後片付けを一人でしていた。
ほとんどが傘を忘れたから直ぐに帰った。
残りは体調不良で休み。
『まだ残ってたのか?』
『う、うん…これ片付けたら帰るつもりだよ。』
今の返事変だったよなぁ…冷たかったかな?
好きな人から話しかけられると、いつも話したくても話せない…
『今雨降ってるけど、傘持ってる?』
『今日は折りたたみ傘持って来たんだ。』
あなたは今日学校の傘を借りるんでしょ?
『雨が酷くなる前にもう帰ったら?』
あぁ……やっぱり冷たく言っちゃったなぁ…
『そうするわー』
好きな人が急足で行ってしまった。
もう少し話せば良かったのにな…
昇降口で靴を履き替えていたら、雨宿りしている人が居た。
傘忘れたのかな…学校の傘借りれば良いのに…
『よっ、片付け終わったのか?』
さっきまで聞いていた声が聞こえて来て驚いた。
『あれ?…帰ったんじゃないの?』
好きな人は恥ずかしそうな表情をして、
『…折りたたみ傘持ってくるの忘れてさ。』
恥ずかしい時の癖なのか、目は右下を見ていた
『学校のは?……あ、もう無いんだ。』
大量の傘が入っていた大きなバケツは空になって端に寄せられていた。
『雨が弱まるまで待つつもり』
あなたがそう言った途端、秋風が二人の間を吹き抜けた。
朝より冷たく、何かを急かすような秋風だった。
『傘、入る?』
冷たい風に驚いた反射で変な事を言ってしまった。
『俺は別に良いけど、お前は良いのか?服とか濡れるぞ。』
まさかの返答に驚き、硬直してしまった。
これは普通に友達としての言葉として捉えて良いのか、悩みどころだった。
『確か家の方向同じでしょ?途中まで入ってて良いよ。』
『サンキュー。』
折角なら晴れてる日に一緒に帰りたかったな…
そう思いそうになったが、もし晴れていた時を考えたら好きな人と一緒に帰る事が無かったと思った。
夕方に雨、秋風が冷たい、傘持ってない人が多い
この状況があったから今一緒に帰れているんだ。
好きな人は昼間みたいな明るいお喋りさんではなかった。
どこか落ち着いててギャップがあった。
意外な一面を知ってまた胸が熱くなった。
胸が熱くなってる二人の間にまた秋風が通り抜けて行った。
【空を見上げて心に浮かんだこと】
私は毎日空を見てる。
朝でも雪でも春でも…無意識に絶対一回は見てる。
ずーっと見てる時もあって、自分で驚く時がよくある。
最近は空の表情と同じになる時が多いなぁ…
晴れの時は明るくなって、雨の日は必ず泣きそうになる。
それで、気づいたらあだ名が天気になってたんだー。
………変だね。
天気によって自分の感情が変わるなんて。
最近は晴れの時と雨の時が交互にあるから、余計に感情の起伏が激しい。
久しぶりに路地裏を歩き回った。
前までは怖いと感じてた路地が、今ではなんとも思わない道へと変わってた。
路地に入ってなかったから大学で友達が沢山できたのかもしれない。
「あ…雨降りそう。」
急いで帰らないと…そう思い早歩きで歩いた時、スマホの通知が鳴った。
家に帰って、メールを開いた。
メールを読んでからの記憶が無かった。
ただ覚えてると言ったら、机の上に水が溢れたぐらい?
気づいたら朝になってた。床で寝てたみたい。
もう一度メールを見たら、不在着信が来てた。
ピンポーン、ピンポーン……
それに加えてインターホンが数回鳴った。
今日の天気は晴れ時々曇り、気温は26度。
大学に行く準備をして眠くなったから、ベットに潜った。
メールは開きっぱ、また着信が鳴った。
最近大丈夫なの? 18:53
今日のあんた、いつもより変だったよ? 19:27
心配しないでって言われたけど、 19:28
無理だよ 19:28
みんなにあんな事されてて、 19:29
不在着信 19:38
不在着信 20:09
ごめん、嫌だと思うけど家に行くね 6:37
不在着信 7:19
空を見て私は毎回訴えてたかもしれない。
「やめて」
これさえ言えれば、大事になってなかった気がする。
次からは頑張って言ってみよ。
言えなくても態度で示せば、何かが変われる。
空を見上げるたびにそんな事が頭に浮かんでいたのかもしれない。
【終わりにしよう】
僕は今の彼女との関係を終わらせようと思ってる。
なんか凄く曖昧で、この生活に慣れた感じがして…
でも彼女は何も気にしてないみたいだ…僕は気にしてるけどね。
初めは気にしないでおこうとしたけど…日に日に気になるばかり。
ソワソワしてる僕の横で平然とスマホを見ている彼女。
正直、不安になる。
最近、彼女が雑誌を読むようになった。
「今はネットの時代!すぐに読める方が良いでしょ?」
彼女の言う事は現実的だ。それなのに…
「またレシート出しっぱにしてー。」
「ごめーん、後で捨てとくね。」
「…あれ?雑誌なんて読んでたっけ?」
「友達の勧めでね。」
「何系読んでるの?ファッション?」
「まぁ、そんな感じかな?」
「今度読ませてよ、僕も読みたい」
「つまんないから読まなくて良いよ。」
スマホが鳴った瞬間、彼女は席を立って急ぎ足で玄関へと向かった。
「ごめん、これから友達とご飯なんだ。」
「そっか…楽しんできてね!」
そんな会話をして半年、僕は今彼女の目の前にいる。
変で重々しい雰囲気を壊すように彼女が口を開いた。
「話って、何?」
「あ…うん。」
そうだ、僕は今日彼女とこの関係を終わらせに来たんだ。
「あのさ…もう、この関係やめない?」
「え………。」
彼女の顔は…やっぱり涙でいっぱいだった。
「ごめんな、ずっと言えてなくて…。」
「こんな所で泣いちゃって、ごめんね…。」
確かに、泣いてしまうかもしれない。だって…
だって、彼女の目の前には……
その日の夜、机の上には指輪と結婚雑誌が置いてあった。
【神様だけが知っている】
こんにちは、私は赤ちゃんです。
まだお母さんの所に行ってないから名前が無いの。
あとちょっと、なんだけど…待ちきれない!
だから、みんなの順番を抜かして一番にお母さんの所に行ったの。
そしたらね、なんか変だったの。
お腹の中は狭いし、暗いし、お母さんの声も聞こえないし、
居心地が悪かったんだ。
だから、お空に戻ったの。
お母さんに会えなくて悲しくて泣いてたら、神様が来たの。
神様はね私に怒ったの。
「順番を抜かしたら沢山の人に迷惑になるんだよ。」
「ずっとお母さんを待っていた子と赤ちゃんを待っていたお母さんたちが泣いちゃうんだよ?」
「あなたは半年後にお母さんの所に行けるからね。」
「それまで良い子で待っているんだよ。」
私ね半年後に会えるって聞いて嬉しくなったの。
だってね、100年前からずーっと待ってたんだもん。
あと少し、あと少しでお母さんたちに会える!
でも、何で神様は私がお母さんの所に行ける時を知ってたんだろ?
神様だけが知っているのかな?
もしそうだったら、神様ってすごい!
やっと順番が来たよ!
長い滑り台でお母さんの所に行けたんだ。
お腹の中は広くて、明るくて、お母さんたちの声が聞こえて、暖かかったんだ。
お母さん、やっとお腹に来れたよ。
神様の言う事守れたからお腹に来れたんだ。
神様だけが知っている。
いつ、誰かのお腹の中に行って、成長する時を。
【1年後】
「あ…俺、タヒんだのか」
花畑にいるってことは…タヒんだ事を言ってるのか。
「あの人、もしかして…!!」
遠くにいる女の人、俺はすぐに分かった。
「おーい!」
彼女だ、付き合ってるあの子だ!
「!………」
「今そっちに行く!」
花を踏まないように急いで彼女の元へ走ろうとしたが、
「ーーーー。」
「ん?…何言ってるんだ?」
今にも泣きそうな彼女が俺に何かを訴えてた。
「……足が」
急に花の茎が俺の足を動かせないよう固定した。
「あっちに行かせてくれ!」
泣きそうな彼女を黙って見るなんて…彼氏失格だ。
「1年後!!」
急に彼女が大声で言った。
「1年?」
急に俺の視界が崩れたと同時に彼女の顔が大粒の涙でいっぱいになった。
あの夢から4年後、俺は結婚し、妻が子どもを産んだ。
「そうか…もう4歳になるのかー」
「ほんと、子どもの成長って早いのね」
「パパー」
「どうしたー?」
「わたしね、お花いっぱいのところにいたんだ」
「お花…?」
娘から「お花」の単語を聞いて俺は無意識に記憶を辿った。
「でもねー、わたしないちゃったの」
「………!」
「おとこのこがはしってきたからー…」
この時、俺は全てを思い出して理解した。
あの夢から覚めた時、俺は病室で寝ていた。
事故だった。沢山の歩行者を轢いた事故。
その時、ちょうど付き合って3年の彼女といた」
楽しいデートになるはずだったのに、一瞬で崩れた。
俺は一命を取り留めたが…彼女は当たりどころが悪く、タヒんでしまった。
辛かった。消えたかった。彼女と一緒にタヒにたかった。
それでもなぜか俺は前向きに生きて、今の幸せを掴んでる。
「わたしね、こないでっていったの。」
彼女がタヒんでから1年後に俺は結婚して妻が妊娠した。
待望の子ども、もしかしたらだけど…
「彼女ちゃんか?」
「だーれ?」
…あの時付き合ってた女の子。
もし娘が彼女の生まれ変わりなら、あの時の言葉は…
俺の未来を暗示していたのかもしれないな