「初恋の日」
恋とかくだらない。
恋に支配されてる人間は、もっとくだらない。
そう、思っていた。
あーめんどくさい。
今日も今日とても平凡な1日を生きていかなきゃいけない。
本当にめんどくさい。
しかも1限は数学だし、本当に嫌になる。
そんなことを考えながら登校していると、目の前には1組のカップル。
「はぁ。」
思わずため息が出る。
ただでさえ憂鬱なのに朝からカップルを見るだなんてついてない。
目の前のカップルは周りなんか見えてないのか2人の世界に浸ってイチャイチャしている。
遂にはキスまでし始めた。
横断歩道でカップルを抜き、視界に入らないようにする。
「あー、最悪。」
数学の授業。今日は二次関数の勉強をしているらしい。
らしいというのも、私は机に突っ伏して殆ど何も聞いてないからわからないのだ。
大体、算数から諦めているというのに数学をしろという方がおかしいのだ。
「だ……さ…らだ…桜田…!」
「っっ!ふぁい!」
寝ていたせいで突然呼ばれた自分の名前に変な声で反応してしまう。
関わったことも喋ったこともないクラスメイトがくすくす笑っているのが横目に見える。
「桜田。ここの問題、解いてみろ」
先生が指を刺している問題を凝視するが、全くもってわからない。
まず、何が問われているのかも分からない。何が問われているのかも分からないのだから答えが分かるはずもなく、
「分かりません」
「お前……。はぁ、とりあえず分からないなら寝ずにちゃんと授業聞こうなあ」
先生が呆れたようにため息をつき、間延びした低い声で授業を受けるように催促する。
それを無視してまた机に突っ伏し、寝る体制に入った。
目が覚めると数学の授業は終わっていて、机の上に一枚のメモ。
『桜田ひなこ。
放課後、職員室に来い。話したいことがある。
数学科、高橋。』
数学の時間寝ていたのが原因だろう。
めんどくさいことが起きそうで嫌になる。
今日は朝から嫌なことばかりだ。
2限は現代文。現代文は授業なんて受けなくても得意なのだが、楽しいからきちんと受ける。
沖田先生は可愛くて、私のお気に入りだ。
3限目は生物。好きでも嫌いでもないので、この授業は落書きの時間だ。村田先生は生徒に興味がないのか、寝ている人も遊んでいる人も放置で授業を進めている。
4限目は体育。お弁当前の体育はお腹がなってもバレないのがいいところだ。今日はバレーで、隅っこにいればほとんど動かなくて済む。優しい木村先生も私のお気に入りだ。
5限目は古典。古典はまあまあ好きだからきちんと受ける。三森先生は顔がいい。美人でみんなの人気者だ。
6限目は物理。数学と同じくらい嫌いなので、しっかりと寝る。戸田先生は何回注意しても聞かない私のことを諦めている。
そして、放課後。
高橋先生のところに行くのをサボろうかと思ったが、きちんと行くことにした。
私、偉い。偉すぎる。
コンコンコン。
「失礼しまーす。高橋先生はいらっしゃいますかー」
「おー、桜田。ここだ」
この先生、声と顔だけはいいんだよなあと考えながら先生がいるところへ向かう。
「お前、数学の授業寝過ぎ。明日から補習な」
…………。
は?
「は?」
思ったことがそのまま口に出る。
「なんでですか?別にテスト赤点じゃないですよね?」
「まあ、そうなんだがな、流石に目に余るんだよ。他の生徒は頑張ってるだろ」
「嫌です。忙しいので」
それだけ言い残して帰ろうとする。
「あー、いいのか?お前」
「なんですか?」
「お前の出席数、寝てる時のは出席してないことにしちゃおっかなあ」
「脅しはよくないと思いますけど?」
「残念だったな。ここ見ろ」
先生が指を刺していたのは、分厚い本の一部分。
『教師は、あまりにも授業態度が悪い生徒の出席数を減らすことができる』※実際はどうかわかりません。
「……」
「な?これは正当なんだよ。で、補習するよな?」
「……」
「するよな?」
先生がニヤニヤしながら圧をかけてくる。
「はぁ、分かりましたよ。やればいいんでしょ」
それから数日後の放課後。
「よし、桜田。今日も補習するぞ」
「うぃー」
「今日はこの前やった二次関数だ。」
先生の話をなんとなく聞き流す。
なんか、頭痛いな。
今日は雨だからだろうか。分からない、分からないけど割れるように頭が痛かった。
「桜田、ここどうなるか分かるか?」
「桜田……?お、おい!桜田!」
最後に聞いたのは、いつも冷静な先生が焦った声だった。
目が覚めると、ベッドの上にいた。保健室のベッドだ。
ふと視線を落とすと、そこにはメガネを外した高橋先生がベッドに頭を乗せて寝ていた。
先生をまじまじと見てみる。
スッと通った鼻筋に長いまつ毛。サラサラな黒髪は、女生徒がキャーキャー騒ぐのも頷ける。
メガネを付けていてもイケメンなのに、メガネを外してイケメンじゃないわけがない。
ま、私からしたら大嫌いな数学の教師ってだけだけど。
「……。そんなに見つめて楽しいか?」
「っ!?」
大きな目が開き、寝起き特有の少し掠れた声が先生の綺麗な唇から溢れる。
メガネが無いからか、先生の距離がいつもより近い。いや、近すぎる。
「なあ、桜田?」
先生の吐息がかかる。
き、キスされる!
そう思った瞬間。
「ふっ、冗談だよ。体調大丈夫か?」
「だ、大丈夫です」
「それなら良かった」
安心したような優しい声に、なぜだか胸がドキンと鳴る。
メガネをかけた先生は、私に向かって笑顔を見せた。
先生の笑顔、初めて見た。
こんな風に笑うんだ。
そう思うと胸が、鼓動が激しくなっていく。
先生の顔が見れない。
あれ、これって……。
「『ありがとう』そんな言葉を伝えたかった。その人のことを思い浮かべて言葉を綴ってみて。」
いつも美味しいご飯を作ってくれてありがとう。
いつも働いてくれてありがとう。
いつも支えてくれてありがとう。
いつも一緒におバカなことして騒ぎ合ってくれてありがとう。
いつも優しくお話を聞いてくれてありがとう。
いつも美味しいお野菜とお米を作ってくれてありがとう。
いつも笑顔でいてくれてありがとう。
いつも優しく接してくれてありがとう。
いつも自分の貴重な時間を削って私に使ってくれてありがとう。
いつも愛情をくれてありがとう。
ここまで育ててくれて、ありがとう。
これからもよろしくね。
大好きな家族へ。ありがとう。
「優しくしないで」
優しくしないで……。
お願いだから、優しくしないで。
苦しくて苦しくて、もうどうしようもなかった時、あなたの優しさに救われた。
だけど、今はその優しさが私を苦しめるの。
あなたの優しさに触れるたびに痛くて痛くて、苦しくて辛くてどうしようもなくなる。
「君なら大丈夫だよ。きっとできる」
そうかな。私にできるかな?
「これまでだってそうだったじゃないか。僕は君のことを見ていたよ」
そうだね、見てくれていたね。ありがとう。
「すごい!この前より上達してる!」
してないよ。あなたの言うとおりに治しただけだよ。
「泣かないで。君は笑顔が似合うよ」
そんなこと、あなたしか言ってくれないよ。
「どうしたの?辛いの?こっちおいで」
辛い。あなたの優しさが、辛い。
あぁ、あなたのことが好きだ。
あなたの優しさが、あなたの声が、あなたの匂いが、あなたの温もりが、あなたという存在が、好きだ。
“好き”って、“恋”って楽しいものだと思ってた。
でも実際はただただ辛いだけ。
あぁ、こんな感情知らなければよかった。
あなたが私に優しくするたびに、私の心は熱く燃え上がる。
燃え上がれば燃え上がるほど痛くて、苦しい。
だって、だって……。
私は、
人間じゃないから。
「カラフル」
あか、あお、きいろ、みどり。
あかは情熱のあか。
あおは冷静のあお。
きいろは元気のきいろ。
みどりは癒しのみどり。
色の効果は、凄い。
すごく強い力を持っている。
それは言葉と同じくらいの強い力。
色を効果的に使うことで、毎日がちょっとずつ変わっていく。
それは、心の色にも効果があるの。
私は、今日は赤色。
課題を頑張ったの。
俺は、んー。黄色かなあ。
体育あったし、サッカーしたから元気だったなって。
うちはピンク!
今日ね、好きな人が挨拶してくれてん!最高やろ?キュンキュンやで!
僕、は……。み、水色で……。
今日も学校に行けなくて……。な、泣いちゃった、から……。
あたしは、黒かなあ。
親が不倫相手を家に上げやがった。本当にキモい。
私は、白ですかね。
今日も今日とて神の恩恵を受けましたから!
あたいは灰色かな。
ま、なんつーの?良いこともあったけど悪いこともあったなって。当たり前か!アハハ!
赤色のあなたには、癒しの緑色を。
黄色のあなたには、冷静の青色を。
ピンク色のあなたには、ロマンチックな紫色を。
水色のあなたには、元気の黄色を。
黒色のあなたには、清潔の白色を。
白色のあなたには、情熱の赤色を。
灰色のあなたには、自然の茶色を。
それぞれの心の色に、それぞれの色を。
素敵な色を。
「楽園」
もふもふ。もふもふもふ。もふもふもふもふ。
もふもふ。もふもふもふ。もふもふもふもふ。
もふもふ。もふもふもふ。もふもふもふもふ。
俺の周りは今、360度、全部もふもふな猫ちゃんでいっぱいだ。
もふもふ。もふもふもふニャー。もふもふもふもふニャーニャーニャー。
もふもふ。もふもふもふニャー。もふもふもふもふニャーニャーニャー。
どこを見てももふもふ、可愛い、可愛い、もふもふ!
あー、ここが楽園なのか……。
一生ここに居たい。
この幸せすぎる空間に、一生いたい。
猫パラダイス。あぁなんて、なんて最高なんだ。
気持ちが昂り思いっきり声が出た。
「さいっこう!!!!!」
と、同時に猫たちが雲散霧消し目が覚める。
夢だったのか……。
残念に思いながらもあの幸せを噛み締め、メガネを探す。
もふ。
ん?
もふもふもふ。
もふもふに顔を近づけると、