私はいつの間にか
白いモンシロチョウを追いかけていた。
待って、行かないで────
「おはようございます、お嬢様。」
私はいつもの様に謎に顔の良い私専属の執事に起こされて起きた。
なんだ。夢、だったのか。
メイドが私1人には広すぎる部屋のカーテンを開けていた。
暖かな春の太陽の光が部屋に入ってくる。
それにしても、朝からその顔は流石に目が覚める。
「おはよう。」
執事に挨拶すると、執事はニコッと笑った。
朝から眩しすぎる…。
私は軽く伸びをして起き上がると、またいつもの様に無駄に大きい鏡の前に座り、メイク担当のメイドにくしで髪をといてもらう。
「今日の予定は?」
「特にございません。」
「そう。」
そんな淡々とした会話をしていると普通は寂しいものだが、私はなんとも思わない。
いつもの事なのだから。
─────
9歳の時。お父様とお母様に捨てられた私は別邸に追いやられた。
優秀な兄と弟がいるからお前はいらない、と言われて私は心底嬉しかった。
なんせ両親が毎日うるさかったから、解放されてせいせいした。
私は本邸のメイドと執事の信頼を勝ち取っていた為、何人かは反対してくれた。
だが、反対するならクビにする、とお父様が言い張ったのでその人たちは仕方なく私と一緒に追放された。
私の追放に反対しなかった本邸に残ったメイドと執事は全て本邸の両親と兄弟に仕えるフリをして諜報員として活躍してもらっている。
反対した人たち以外はこんな事もあろうかと全て私が買収したのだ。
その人たちが思ったよりも優秀だったので、両親の悪事がつきつぎに浮き彫りになっていった。
それから物事は順調に進み両親は断罪され、優秀な兄と弟が両親の仕事をやってくれているので、私は家でゴロゴロできるのだ。
順調に進み過ぎて怖かったぐらいだ。
恐るべし、メイドと執事。
─────
「お嬢様、終わりましたよ。」
色々考えていると、身の回りの事が全て終わった様だ。
さすが、と言うべきか。手際がいい。
「今日も暇ね。」
忘れられない。
あの日の絶望。
孤独に蝕まれ
1人、泣いていた事。
世界の全てが憎くて。
でも泣く事しか出来なくて。
こんな時
傍に居てくれる人が居てくれれば
なんて。
あの絶望が
あの孤独が
忘れられない、いつまでも。
高校生の時、雨が降っていた放課後。
親友が珍しく傘を忘れ、俺は仕方なく親友と相合傘をしていた。
その帰る途中の事だった。
「なー、親友、明日世界が終わるならどーする?」
「は?」
急に質問されてびっくりして、変な声が出た。
いや、自分の気持ちを見透かされている様でびっくりしたのかもしれない。
少し視線が泳いでしまった。
「だからー、明日世界が終わるならどーすんのって聞いてんだけど。」
いつも色々急すぎて困るが、今回は本当に困った。
「まじで急な質問だな。お前もうちょっと時と場合を選べよ…。」
と呆れた口調で言ったものの、声が少し震えていたのが自分でもわかった。
そう、俺は内心焦っていた。
こういう時、何と答えるべきなんだろうか、と。
本当のことを言うなら、
もしも世界が終わるなら、俺は───
「真剣に聞いてるからちゃんと答えて欲しいんだけど?」
親友の声に、俺ははっとした。
ダメだ。言えるはずがない。
無垢な顔をしてこちらをみる目に、俺は思わず顔を逸らしてしまった。
「…なー、隠し事してるだろ?」
親友が顔を覗き込んできた。
その目は、全てを見抜く様な目をしていた。
これはもう、観念するしかない。
「聞いて驚くなよ。」
「やっと言う気になったか。今更何に驚くんだよ。」
親友はジト目でこちらを見てくる。
やっぱり、この関係は壊したくない。
でも、親友に隠し事を続けるのは無理だ。
「明日世界が終わるなら俺はお前に今、言いたい。」
少し言葉がつまったが、勇気を振り絞った。
「…好きだ。」
親友が少し間を開けた後、顔を真っ赤にしてへ?と
小さく間抜けな声をだしたのを、今でも覚えている。
君と出逢って
初めて生きたいと
思ったんだ
ありがとう
…そうだった
君はもう、居ないんだった
君は元々重い病気にかかって
20歳まで生きられないって
分かってたのに
覚悟してたつもりだったのに
ごめんね
もう限界みたいだ
君の居ない世界なんて
なんの価値もない
だから
君の居ない世界にさようなら
自分の体をふわっと宙に投げ出した刹那
僕は何を思ったのだろうか
耳を澄ますと
傷ついた自分の
心の声が聞こえてくる
だから耳を塞いだ
でも心の声だから
聞こえてくる
既にキャパシティを
遥かに超えていたストレスが
耐えきれず溢れ出した涙で
流れていけばいいのにな