【コーポ エリーゼ 202号室】
肉じゃがににんじんを入れない。
青椒肉絲はいいけど、肉詰めは嫌い。
パスタは11分以上茹でる麺しか選ばない。
契約とは違うけど
彼の機嫌を取るのは面倒くさい。
名城線、大須観音前駅で降りると
階段を上がってすぐに人の賑わいを感じる。
たこ焼き屋のソースの匂い
ケバブ屋さんの客寄せの声
飲食店やメイドカフェ
衣料品店がないまぜに立ち並ぶ
大須商店街は
とぼとぼ歩きのOLなんて気にしない。
私は迷わずベトナム料理屋のレジで注文をする。
「鶏肉のバインミーとチェーを持ち帰りで」
カタコトの店員が慣れた手つきでレジを打ち
会計を済ませる。
店のはじ、椅子に座り
いつの間にかスマホを開いていた。
通知はなるようにしているから
結果はわかっていたのに。
ついたため息を深呼吸に変える。
「ありがとゴザイマス」
にっこりと笑う彼はきっと善良な人間だろう。
でも今の私は嘲笑うような笑みだと思ってしまった。
いつも一緒に来ていた男は一緒じゃないのだな。
一人分のバインミー、一人分のチェーを
一人で買いに来た、虚しい女。
コーポエリーゼ202号室は
二人の城だった。
引っ越してすぐ荷解きの前に抱き合ったあの情熱が
嘘みたいな、冷たく暗い部屋に帰ってきた。
窓の外からもわかる暗い部屋なのに
「ただいま」と言ってしまうところが
さらに自分を冷たくさせる。
電気を付けて、暖房をつける
27度、汗をかくくらい、暖かくする。
風呂に湯を張っている間に
食事を済ませる。
二人で見ていたユーチューバーの投稿は
先週から更新が止まっている。
甘いチェーが喉につかえる。
仕方がないから洗濯をする。
仕方がないから風呂に入る。
仕方がないからぼーっとする。
仕方がないから眠れもしないのに横になる。
一人で眠るには広くて
二人で眠るにはちょうどせまい
ベットの温もりは暖房が充してくれる。
面倒くさいことは大体大事なこと。
彼を思ってしまう
面倒くさいこの未練は
きっと大事なこと。
ばかみたい。
期待して
期待して
期待して
まだ飽きもせず、期待してる。
同じ空の下でも、遠い場所にいて
触れることのできない人を
夢の中では 隣に座らせられる。
手をとって 頬を触らせられる。
髪を撫で顔を引き寄せキスができる。
夢の時間はすぐ終わってしまうけれど
今だけ夢が醒めるまでは
わかっているから
都合のいい 明晰夢を見させてよ
夢が醒める前に もう一度だけ
抱きしめて。
はっず/////www
大人になってからしか
気がつけなかったけど
結局
アンパンマンの歌って
めちゃよくない?