車椅子に乗る女性、白い網タイツにニーハイブーツ。
白いキャスケットと赤いメガネ。どっからどう見てもオシャレ。ヨイショと漕ぎ出して足を前に投げ出した。勢いよく漕いだご機嫌なブランコ乗りのようだった。
彼女にはその二本の足で立つ、歩く能力はないようだが、しかし、背中を丸めて、下を向いて歩くわたしより、いやその場にいた誰より、自信に満ちて自分らしさを大切に生きているように見えた。
そうでなければ風景だったはず。いつもの日常だったはず。
とても刺激的な出会いだった、また会えたら声をかけようと思う、素敵ですねなのか、お手伝いしましょうかなのか。その出会いを楽しみに駅前を、少し、顔を上げ歩く。
【ブランコ】
2024/2/1
義理の父、良司が死んだ。
こんなに悲しいのに時間は止まってくれないし、ちょうどよく私と同じ感覚で悲しんでくれる人もいない。私にとって唯一無二の存在だったんだなぁといなくなってから、もう話せなくなってから痛感する。
つくづく自分は面倒臭いやつ。お悔やみ申し上げますと言われても悔やんでるのはこっちだよとか、大丈夫?と言われてもこれで大丈夫なふうに見えんのかよとか。
隠れてタバコを吸って、見られちゃったみたいな顔をする。こだわりのハンチングがトレードマークで少し面長の顔にとても似合ってた。ジャージの裾が靴下に噛んじゃってるの本当に可愛いかった。私の職場を気にして免許返納を渋ってた。たまにふらっと来て、ピザ食うか?とチラシ配り中に渡そうとする、いらねぇよバカ。虫だらけの野菜を「よくできたから」と45ℓのゴミ袋満杯に持ってくる、ほんと迷惑、でも美味しかった。白内障の目が美しく思えてじっと見つめたくなってしまう、良司がもう、目を開けない。
後悔は影に似ている、つかず離れず常にあり、一時、存在が薄れたとしても、必ず迫ってくる。あと何回こんな思いをしなくてはならないのか。明日はきっと晴れるとか、やまない雨はないとか、人はいつか死ぬものだとか、ほんとうるさい。しらねぇよ。勝手に死んでんじゃねぇよ、おとうさん。
一昨日までの恋を忘れるにはあまりに時間が経っていない。わかってる、わかってるけど、もう囚われていたくない。
心の中には好きだった記憶と愛してた記憶と、嫌悪・憎悪の類が渦巻いていて、辛い、つらい。
自分がもっと割り切れる人間だったなら【保存せずに削除】ではなくて【名前をつけて新規保存】を選ぶのだろう。過去の思い出として、自分が恋をして、好きになって、愛した人の記憶を【I love...】と甘ったるい名前をつけて保存して、もしかしたら誰かに見せちゃったりして。涙するまで笑ったり、少しだけ思いを蘇らせたり。
それにはまだ時間が経っていない。いまはまだ、1人膝を抱えるとき。
【I love...】
そ
の
や
さ
し
さ
は
う
そ
た
ぶ
ん
き
っ
と
あ
た
し
だ
ま
さ
れ
て
し
ま
う
【やさしさ】
MIDNIGHT
GOODSHOW
皆さんこんばんは、満月の夜のお耳を拝借、夜を滑って朝に眠るラジオDJ【アルフォンス・モシャ】です。
今週はとても冷えましたね、雪の舞う日もありました。体調などは崩されませんでしたか?崩れても、崩れてなくても、お耳のお供にお付き合いくださいね。
さっそく、1通目のお便り紹介です。
p.n.明日はどっちだ、さん。…明日は一応、東方向だと思いますね。はい。さて内容は……
『先日、仕事が手につかなくなるほどハマっていた動画配信者さんのチャンネルを見ても、楽しめていない自分に気がつきました。ルーティーンのような、作業なような物に感じられてしまいました。これからこういうことが増えていくのか、私自身も誰からか必要性を求められなくなる日が来るのでしょうか、不安で仕方がないです』
……随分と重たい1通目、真面目に答えましょうか。
んー。飽きが来ない人なんていない。どんなに丁寧に生きても生命だって終わりが来るのだから、気持ちの終わりくらい、いくらでも来ていいと思います。だけど、人から与えられていた愛にちゃんと感謝をしなきゃいけない。
動画配信者さんはあなただけのために動画を出しているんじゃない、たまたまあなたがヒットしただけ。つまらなくなったのは、笑えなくなったのはあなた自身の変化なのではないですか?
もっとハマるものが見つかったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれないけれど、あなたがこのまましょぼくれていたら、周りはしょぼくれた人だなぁ、声をかけづらいなぁ、と思ってしまいます。
気持ちが変わることは悪くない、むしろ自分が変わり続けることを成長として喜ぶ方が、毎日変わらず昇ってくる太陽に感謝した方が、幸せなんじゃないですか?
……こんなもんでどうですか?いいかな?ふふっ。よく口が滑るものだなと、自分でも少し可笑しくなりました。さて、明日はどっちだ、さんに一曲目、お届けします。
Mrs. GREEN APPLEで【ダンスホール】
軽快な音楽が夜に響く。きっと明日はもうすぐ見える。