待ち合わせは6:30なのに起きたら11:00だった。LINEの通知は不在着信ばかり、そして最後に一つのメッセージ。
文字なのに声よりも温度を感じた。
「さすがに無理、今日なしね」
一段と寒い朝、いつまでも毛布に包まれていたい。顔を洗おうとスマホを持ってずるりとベットから抜け出る。今すぐ謝罪の連絡をする勇気もないずるい自分を自己嫌悪しながら顔を洗う。顔の脂と一緒にこの罪も流れ消えてくれたなら。
そんなことを思っていたら、6:00。
あの時の後悔と顔の脂は水溶性だったようだ。
【こんなゆめをみた】
タイムマシーン
恋焦がれていたはずのお前をみて失望した。なんだ、所詮そんな男と一緒になるのか。
小、中、高と同じ通学路、同じ道を進んでた。誰より俺が近くにいて、俺しか知らないお前がいたはず。お互い特別で、俺たちだけの世界があったはず。
大学はお前にとっての井戸の外、新しくて眩しい世界だったんだな。俺が古臭く見えただろう。それどころか俺を思い出すこともなかっただろう。SNSで見るお前がどんどんと遠い存在になっていった。
それでも成人式で一番最初に綺麗と言ったのは俺、隣の席で笑ってるお前を誰よりも可愛いと思っていた。お前を好きな自分がまだちゃんといた。ずっと、ちゃんと好きだった。
タイムマシーンがあったならどこに戻ろう。
花粉症のくしゃみをした俺の鼻垂れをみて一瞬笑ったのに「笑ってないよ」と誤魔化した春。ただ一緒にアイスをたべながらスプラトゥーンをした夏。お前の赤いランドセルにイチョウの黄色が映えて眩しかった秋。「空気が冷たくて、匂いがしないね」と少ししょぼくれていた冬。
好き、だというにはあまりに好きすぎて伝えられなかった。まだまだもっと、好きになれると思っていたから。
あの日々に戻ってがむしゃらに好きを伝えたい。だからどうか、こんなにも未練がましい俺を見捨てないでくれ、メグ。
「ねぇ、この海で1番素敵なところを知ってるかい?」
変なやつに声をかけられた。少しだけ、うとうとしていたので返事が遅れたが、やつは呑気なものだ。
波をちょろちょろとくすぐっている。
ずいぶんとぼってりしたやつだなとぼんやり思っていたら
「ねぇ、聞こえないのかい?」
懲りずにやつは絡んでくる。
「……知らないよ、僕は動けないからな」
ピタリと動きを止めて「そうなんだ」つぶやいた。
「…あのさ、きみのピンクの髪がキラキラゆれて、素敵だね。お土産話を持ってまたくるよ。待っててね」
やつは、こちらがうんともすんとも返す前から、重そうな体を振って陽気に去っていった。
次の日も、次の日も、やつは来なかった。もうやつから香った甘い匂いも、忘れてしまいそうだ。
海の底【たい焼きくんと桃色サンゴ】
キミに会いたくて
あの日別れたキミはもういない。
かといって僕ももう、魂になっている。
なんなら味噌汁になった。
それはもう適当な扱いだ。
わかめと豆腐になんとなく白い物体として。
どうせならメレンゲになりたかった。
キミは美味しいカルボナーラに。
いいな。いいなぁ。
来世は一緒に生まれたとしても
僕はキミになりたいよ。
美しいはつくられる
美しいはつくられる
美しいはつかえる
美しいはつかえる
美しいはつかれる
美しいはつかれる
美しいはつきる
美しいはつきる
美しいは
うつくしいは
うつくるしいは
うつくるしいは