鼻下をおさえる。
ハンカチは目元にあてて。
目立たないよう席を立ち、式場の空っぽな通路をすすみ、化粧室へ。
台に手をつく見苦しい姿すら
鏡は大きく鮮明に映す。
演出されている。
これまでのわたしの人生、これからのあなたの人生、
道中また会おうと約束したってもう交わらない。
手に落ち続ける血の数滴。
指圧しながら前かがみになり。
膝を折ってしまえば立ちあがれなくなる。
くらむ視界の滲んだ世界、わたしを置き去りに式は進む。
【心の旅路】
この世で一番
ピシリ、ヒビが入り
あなたが一番とお答えになる
童話は残酷
でも物語はもっと残酷
どこまでも都合よく 優しく恐ろしく
あなたのために話してあげる
一番 はじめの『……』
嘘なんて吐かないわ 手心だって加えない
他にだれも聞いていないこと たしかめたら
さあベッドにお入りなさい
興味あるでしょ ここだけのはなし
あのコは顔色変えて逃げちゃったの
鏡よ鏡 とっても素敵
今日もあの方に伝えてね
こんどは上手くいくはずよ
【凍てつく鏡】
ゆくあてのない
美しいよる
きつね 振りかえり脇道それる
笠ふかく 天しれず 足跡たどり先おもわず
無心であることのむずかしさよ旅のもの
枯れ木につもり落つもどかしさよ
先導のもの
なに故 そうも美しくひかる
彷徨えるのなら共に つとめて里帰るなら終に
【雪明かりの夜】
…………ちょっと、ちょっとちょっと、
ちょっと何してんの!!
「あんた何して、ばっ危な! はやく離れて!」
「観測中だ」
「ライン超えてんだろお!!」
「も〜〜ほんとやめてよ……」
「観測中だと言った筈だ」
だから安全距離超えてるんだってば。その毛先が触れたらどうなるかわかってます、ちょっぴり焦げちゃった! なんかで絶対済まないって。
「あれは熱を発しない」
「そういうことじゃないんだなぁ」
「あれが何か知っているのか」
「いや……知りませんけど」
あんまり詳しくは。てか、アレ何?
「触ったらビッグバンが起きるとか……説明されて、質問も許されないまま終わったし」
はぁ、でも何も起きなくて、ひとまずは良かった。
「…………」
「……あー、あの、もしかして、ここで研究してる人?
だったら邪魔して悪いけど……」
「君がこの空間に居ることに驚いた」
襟元のピンを見るに、第一の扉も開けられない等級では。
「…………」
「そして未だに此処に居る。興味深い現象だ」
「人を現象扱いしないでもらえます?」
……ちゃんと許可は貰ってますから。
無事に此処から出られた後にね。
「成程」
観測の時を待っている訳だ。
「そうであれば僕にも、予測は出来ていたのだろうね」
「はぁ! ご自身の長年の経験と、勘ってヤツですか。
そりゃスゴい」
「いいや違う」
僕が信じているのは波だ。
……アレが、波? 俺には立方体に見えるけど。
近付いてみるといい。微かに波紋がある……
「…………」
「…………」
「本当だ。なんか動いてる」
「だろう」
日々、観察を怠らずして此処まで来た。
「この地味な作業を、まだ続けるおつもりで?」
「無論」
何故なら全てを捧げているから。
解明の時を待たずとも。
「それを無謀って言うんじゃないの」
「では一度振ってみようか」
…………ちょっと、ちょっとちょっと、
【祈りを捧げて】
どうりで羨ましく感じるわけね
思い出を残さないと得られないのよ
残すほどの事でも無かったものね
それを大切に仕舞っておくのが
どんなに難しいったら
わかる?
誰にも言ったことがないから
誰も知らないでしょうけど
もう過ぎてしまった事を思うと
もやがかかって時間がとまって
すぐ引き返すの
あたしずっと欲しいものがあるみたい
でもそれら全部捨ててしまった
人でなくても良いのなら
この縫いぐるみの感触に似てる
【遠い日のぬくもり】