〚ゆずの香り〛
リンゴ農園を1個のゆずが彷徨っていた
「こんなところで何をしているのですか?」
と聞くと、ゆずは少し困ったように言った
「実はお見合い相手を探しているんです。でもなかなか見つからなくて…」
「なるほど……ゆずとりんごが結婚したなんて話はあまり聞いたことがないですね…」
「そ、そんなんですか。じゃあ僕はどうしたら…」
思い詰めているゆずに、私はアドバイスをしてあげることにした
「あなたと同じ、柑橘系のフルーツとお見合いするのはどうでしょうか。きっと気が合う方が見つかると思いますよ。」
「…なるほど!確かにそうですね。ご助言ありがとうございます。
じゃあ次はみかん農園に行ってみることにします。」
ゆずはペコリと頭を下げ、みかん農園の方へと歩いていった
私はリンゴ栽培の仕事に再び取り掛かった
りんごの香りの中に、かすかなゆずの香りが漂っていた
〚大空〛
ふと窓の外に目をやると、神様が大空から地上に向かって、ラッキーの種とアンラッキーの種を振りまいているのが見えた
この世の中で正しいとされている生き方を普通にできる人
社会に適応できない人
たくさんの人に共感・同情してもらい、適切な支援を受けられる悩みを持っている人
見下されたり、冷たい視線を向けられたりと、誰にも理解されない悩みを持っている人
自分がどんな人間で生まれてこれるかは、神様の気まぐれ次第なんだなと思った
〚ベルの音〛
私の妻は結婚式の前日に不慮の事故で亡くなった
悲しみに明け暮れる日々
妻のことを思い出しては泣いていた
ゴーン ゴーン
私が涙を流している時、決まって聞こえてくる結婚式のベルの音
そして温かい何かで包まれるような感覚
きっと妻が慰めてくれているのだろう
私は情けなかった
私が妻をこの世界に無理やり引き留めてしまっている
私が未練や後悔をだらだら引きずっているせいで妻は天国へ行けない
私は覚悟を決め、妻を天国へ旅立たせるために、なるべく泣かないように、そして笑顔でいることを心がけた
すると、徐々にベルの音が聞こえることが少なくなってきた
──私は久しぶりに妻のお墓を訪れた
妻との思い出が一気に頭を駆け巡り、涙が頰を伝う
もう、ベルの音は聞こえない
〚寂しさ〛
人のぬくもりを知ってるからこそ、1人になった時孤独感や寂寥感が湧き上がってくる
それなんだったら最初から君に触れなければよかった
そう後悔することがある
でも、人間が生きていく上で人との関わりは避けられない
だったらその寂しさを成長の肥やしにして、最大限に強くなってみせたい
〚冬は一緒に〛
最近、私の愛用しているスキー板が雪に対して特別な思いを抱いているようです
私はスキー板のロマンスを応援するために、休日には頻繁にスキー場に連れて行ってあげています
このような日々が約5年間も続いています
ある日、私はいつものようにスキー板を連れてスキー場に向かったのですが、雪質に変化を感じ、そのことを店員さんに尋ねてみました
すると、地球温暖化のため雪が降らず、最近は人工雪が使われるようになったということでした
それを知ったスキー板は悲しい面持ちで言いました
「せめて冬の間は一緒に過ごせると思っていたのに」