Mori

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12/13/2023, 7:04:53 AM

〚心と心〛

ハチ公の銅像前で友人と待ち合わせ中
隣りに座っている老人と、ハチ公の会話が聞こえてくる
「おじいさんも誰かを待ってるの?」
「ここに座っていると、どこからともなく今は亡き妻が現れ、話しかけにきてくれるんじゃないかという気がしての。」
「そうなんだ。僕もずっとここで飼い主を待ち続けてるんだけど、全然現れないんだ。
おじいさんはどうして亡くなった人のことを待ってるの?」
「遠くにいても、心と心が繋がっていれば必ず会えるというものさ。私はそう信じておる。」
しばらく沈黙が続いたあと、ハチ公が一筋の涙を流した…ように見えた

12/12/2023, 7:20:28 AM

〚何でもないフリ〛

刑務所生活6年目
居房の掃除中、壁のポスターを剥がすと、掘りかけの大きな穴があった
どうやら俺と同じ部屋に収容されている男が脱獄を試みているらしい
だが俺は知っている
この壁の先にあるのは、外ではなく監視室であることを
俺は男の脱獄を手伝うつもりはない
あと少しでシャバに出られるからだ
だが終身刑である男の境遇を思うと、お門違いな同情心が湧いてきた
俺はこの気持ちに逆らえず、刑務所を出る前日、男に何でもないフリを装いながら、刑務所マップと、穴を埋めるための(収益労働中にこっそり盗み出した)生コンクリートを渡してやった

12/11/2023, 8:03:49 AM

〚仲間〛

河童捜索隊が結成されてから僅か一週間で河童が発見された
捜索の休憩中、川辺で水分補給をしていると、どこからともなく現れた
もっと驚きなのは、私にきゅうりを渡してきたことだ
どうやら私のツルツル頭を見て、仲間だと勘違いしたらしい

12/10/2023, 5:48:22 AM

〚手を繋いで〛

「手出して。」
君が突然、僕に言った
ドキドキしながら差し出した僕の手に、君は桜の花びらを置いた
手を繋ぐのかと思っていた僕は虚を突かれ、一瞬恥ずかしくなった
「はい。これ、綺麗でしょ。あげる。
じゃあ私これからデートだから、もう行かなくちゃ。また明日〜。」
無邪気な笑顔を見せたあと、君は颯爽と走り去った
しばらくその場に立ち尽くしていると、春風が吹いてきた
君にもらった桜の花びらが飛んでいく
僕の叶わぬ恋心と共に

12/9/2023, 3:51:46 AM

〚ありがとう、ごめんね〛

ほとんど使われていない新品同様のありがとうが、使い古され年季の入ったごめんねに話しかけていた
「やっぱりありがとうよりもごめんねのほうが需要高いですよね…
僕もいつか必要とされる日がくるといいなー」
するとごめんねが言った
「ありがとうは人を幸せにする特別な言葉ですよ
私よりもあなたが必要とされる社会になることを心から望んでおります」
これからはありがとうもたくさん使うようにしようと思った

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