〚部屋の片隅で〛
うちで飼ってる2歳のヤンチャな猫が、窓の隙間から脱走した
しまったと思った
猫は一度外の空気を吸ってしまうと味をしめ、それ以降は何度も脱走しようとするからだ
「ヒャッホーイ!外だ外だ!草と土の香りが野生の本能をくすぐるぜ!」
猫はすっかりハイになり、庭中を駆け回っている
遠くに行かれたら困るので家族総出でなんとか捕獲した
その後、小さな猫一匹の度重なる脱走劇に私達家族は悩まされていた
しかし、そんな悩みはすぐに消え去った
ある日突然、猫が部屋の片隅から動かなくなったのだ
「どうしたの?」と聞くと、猫は怯えるような目をしながら言った
「僕、おじいちゃんに言われたんだ。『次外に出たら、金輪際ちゅ~るやらないぞ(☞゚∀゚)☞』って。だから僕もう絶対お外出ない!」
おじいちゃん、それは流石に怖がらせ過ぎだよ
〚逆さま〛
2つの砂時計が、体をくっつけ合い、話している
「僕と結婚しませんか?」
彼からのプロポーズに彼女は一呼吸置いてから答える
「…あなたの砂が落ち切るまで考えさせてください」
しばらく沈黙が続き、刻一刻と時が経つ
すると彼は砂が落ち切る直前、くるっと半回転し、逆さまになった
砂が振り出しに戻る
どうやら断られるのを恐れているようだ
意気地なしだなぁ
もっと自信持ちなよ
彼女は今、とても嬉しそうじゃないか
〚眠れないほど〛
ひどく考える夜
私は1人真っ暗な部屋で泣いていた
闇や孤独に呑まれそうで、誰でもいいから助けてほしいと心の底から思った
泣いている私を誰かに見つけてほしい
そして今まで抱えてきた悩みをすべて受け止めてほしい
それだったらどれだけ楽だろうか
でも悩みや気持ちは言わないと分からない
こっちが黙ってても誰かが助けに来てくれるなんて都合のいい話はない
だから人と話すのが苦手な私は、1人で抱え込むしかない
こんな孤独を感じているのは私だけなんじゃないか
今暗い部屋で1人泣いているのは私だけなんじゃないか
こんな悩みを抱えているのは私だけなんじゃないか
不安だけが募っていく
でも実際はそんなわけない
人間は誰しも孤独を抱えているものだし、悩みがない人なんていない
自分は一人ぼっちじゃないと気づくだけのことがどうしてできないのだろう
〚夢と現実〛
「僕、大人になったら宇宙飛行士になるんだ!」
弟が無邪気に言う
私は「宇宙飛行士なんて絶対なれないよ」と言い聞かせようとしたが、大人に止められた
どうしてだろう
あまり現実に期待させすぎてしまうのもよくない気がする
〚さよならは言わないで〛
「今日は楽しかった。ありがとう。
また休みが合ったら一緒にどっか行こうね。」
デートの別れ際、彼女が名残惜しそうに僕に向かって手を振る
僕も彼女と同じように手を振る
「じゃあ、また。」
彼女は一歩後ろに下がり、最後の挨拶を口にする
「うん、さよなら。」
その瞬間、なんだか嫌な予感がした
冷や汗がどこからともなく噴き出し、本能的に嫌な予感の正体を突き止めようと五感が働く
よくよく目を凝らすと、彼女の口から出たさよならが、嘲笑うような表情でハサミを持っていた
僕は慌ててさよならからハサミを奪おうとするが間に合わなかった
さよならは僕と彼女の間にある赤い糸をチョキンと切り、突然の事態に当惑する僕を馬鹿にした目つきで見る
僕は驚きと怒りと悲しみで頭が混乱し、ただただその場に立ち尽くしていた
すると彼女が僕の方へ近づき、僕の肩に手を乗せ真っ直ぐな眼差しで言った
「赤い糸が切れても私達は心が繋がってる。
どんな困難も一緒に乗り越えていくのが真のパートナーでしょう?」
僕は彼女のたくましさに感動し、それと同時に自分の情けなさを恥じた
赤い糸は切れてしまったが、絆はより深まったように感じた
僕と彼女はほほえみ合い、「またね。」といつも通りの挨拶で別れた
その様子をさよならが悔しそうな表情で見ていた