「結婚してください」
片膝をついて結婚指輪の収まる箱を彼女に差し出す。
絵に描いたようなプロポーズ、こんな大袈裟にするなんてと昔の自分は笑ったことがあるが。なんにせよそれほど本気になってしまったのだ。この人とずっと一緒に生きていたいことを。
沈黙が長くて、怖くて。おそるおそる顔を上げる。
彼女の目は大きく見開かれていて、その瞳の中にひとつ星が輝いていた。
その星の正体に気づいた時、星が溢れおちる。
物心ついたころからソイツは私の周りにいた。
友達と話しているのに割り込んできくるし。
そういうノルマがあるのか、一度は揶揄ってくるししり
クラスが違うというのに隣の席に堂々と座りに来るし。
困ってる時に願ってもないくせに助けに来る。
そんなこんなでひっつき虫のようにくっついてきたというのに。
「これからも、ずっと隣にいさせてください」
「それ、今までとずっと変わらないってことだよね?」
大真面目なプロポーズに、思わず笑ってしまった。
「……こちらこそ、ずっと隣で生きていてください」
やりたいことがあるなら、四の五の言わずにやりなさい。
憧れの人が言った一言に背を押されるように、ひとつのファイルを立ち上げる。
またたく間に画面が切り替わり、そこには数行の文字列が現れる。
それはオリジナルの物語、中途半端に綴られ。展開に詰まり……放置された世界。
──やる気はあとからついてくるから。
憧れの人の言葉が励ますように甦る。
◇
結果から言うと、行動してよかった。
固まる指を無理やり動かし、納得しない話でも思いつく限り書いていこうとあれこれ考えてるうちに。視界が拓けていくように書くべきネタやアイディアが次々と浮かんだのだ。
そのネタは、昨日までの私は思いつきもしなかったもので。
あぁ、もっと知りたいなと思った。
たくさんの可能性を秘めた、私が創造する私の世界を。
仕事が始まる前、休憩所でコーヒーを飲みながら朝のニュースを聴いてると速報が入ってきた。
『○○高校付近で通り魔が現れました──……』
全身の血が抜ける感じがした、その高校名は娘が通い始めた場所だ。縋るように震える手でスマホを起動した後、通知が1件届いた。
『私は無事だよ』
娘の名前と娘のアイコン、なによりその一文に心から安堵し体から力が抜ける。
この数秒間生きた心地がしなかった。
遠ざかった感覚が戻ってきて、速報の続きも耳に届く。
現在も犯人は逃走しているが、目撃者による証言で犯人像が絞れたこと、確保へと迎えられそうなこと、被害者は軽傷ということ。
「被害が少なくてよかったわねえ」
隣で不安そうに速報を見ていた人が胸を撫で下ろした。
速報もほどなくして終わり、いつも通りの天気コーナーへと移り変わる。
いつも通りの平穏な日常に戻るように。
でも、私や私の娘を含めた多くの生徒たちは。いつも通りの日常に戻れない。
恐怖心を植え付けていったその通り魔を、私はずっとゆるせない。
***
人生何が起きるかわからない世の中なので、
速報が終わった後に毎日を大事に生きてこう!って流れて締めたかったんです。なんでこうなったんですか?
毎日嫌なニュースばかりで、穏やかに生きれることに感謝する日々なのですが、同時に人間怖い……と不信感が募って引きこもることもあるので、恐ろしいことをしないで健やかに生きて……愚かなことをするのはやめろ!!!ってなります。
明るいニュースが増えますように。