虚書/Kyokaki

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7/5/2023, 12:48:21 PM

【テーマ:星空】

 夜というのは、住んでいる地域やよく行く場所によって印象が変わる。
 田んぼが広がるような地域では空のラメが目立っているのだろう。正直羨ましく感じる。私の住む地域は電灯と車が煌めくばかりで地面も黒い、多少の街路樹等はあるものの風情という風情が消え失せているような場所だ。まあ、有り体に言ってしまえば都会の方で星空というべきものが見えない。
 そんな中、冬の夜の帰路で見上げた際に唯一見える星座であるオリオン座。それを見ると自分は生きてきたのだと感じる。あの星の並びがオリオン座であるという知識自体ははるか昔に得たものだ。つまり、それから今までの期間をしっかり辿ってきたのだと思える。
 それは素晴らしいことだ。今の今まで死なずに…事故に遭わず、はたまた自殺せずに進んできたのだから。

 私から言ってみれば、自殺を躊躇うことは臆病ではない。自殺とは扉を開けずに道を逸れてどこかへ向かってしまうようなもの。つまり先にあるやもしれん楽しみが潰えるということ。この先を見たいという想いがあるということ。本能があるということ。
 いいじゃないか。嫉妬、傲慢、怠惰、憤怒、強欲、色欲、暴食、憂鬱、虚飾…七つの大罪や八つの枢要罪。上等だ。
 昨今の日本人は人間らしい欲望というのが薄すぎるというふうに感じる。多少自己のために暴れてこそ、他の動物に滅多にない感情を有した人間の権利だと思うがね。

 話が逸れたが、結局のところ私が言いたいのは星空を見上げると己がこうして生きているのを実感できる、素晴らしいものであるということだ。ただ見るだけでそこまで推測してしまうのは単純に妄想癖なのやもしれんが、たった一つでそこまで思案を巡らすことができると考えるとなかなかに面白いとは思わないか?
 どんなことも視点次第。少し角度を変えるだけで人生が面白く思えるのだ。



『以下練習用SS』

 塾からの帰り道。横にある一車線の道路から指す光が眩しくて目を細めた。
「はぁー…ふふ。」
 手が寒いため、温める目的で息を吐くと白い煙が上がるのが面白かった。何度も何度もそれを試して遊ぶ。
 途中、人とすれ違った。高校生にもなってこんな遊びをしていると思われるのが少し恥ずかしく、顔を下に向けた。
「あ。」
 漸く人影が消え、ふと見上げた先に星を見つけた。あの並びは何だったっけ。小さい頃から星座なんて気にしたことなかったな。
「…よし!」
 名前も知らぬ星座から励まされているように思え、明日の受験勉強も頑張ろうと意気込めた。後であれはなんなのか調べてみよう。それがあの星座への恩返しだろうから。

7/4/2023, 5:47:06 PM

【テーマ:神様だけが知っている】

 彼の秘密は神様しか知らなかった。
 彼は普通の男子高校生だった。私の同級生だった。クラスメイトだった。
 特筆すべきところはなく、まさに平凡。微妙に影が薄く、言われなければ居ないのも気づかなかった。
 それほどまでに、印象が残らない人物だった。

 彼と初めて深く関わりを持ったのは丁度一年程前だろうか。
「じゃ、罰ゲームで──に告るってことで!」
 そうして罰ゲームとして彼に告白した。初めはどうとも思ってなかったのだ。しかしそのまま話していく内に、彼の笑顔や、優しさ、そんなものに触れていき本当に惹かれてしまった。
 きっかけとなった罰ゲームを賭けていた友人にそれを告げると驚きはしたものの応援してくれた。流石叶、私の友人だ。

 彼と何回もデートをした。近くのショッピングモールで洋服を買ったり、ゲーセンでぬいぐるみを取ってくれたり…本当に優しかった。本当に嬉しかった。…本当に。彼は信じていなかったようだけど。
「結愛ちゃん、おいで。」
 今日はここらへんでは有名な神社…というより、ここの地域の人は大体ここで参拝するのだ。まあ、そこへと散歩をする。長い階段の先に石造りの無機質な鳥居、そこから石畳を辿ったの向こうには木でできた社がある。つまり一般的な神社だ。
 社に寄ると、白い蛇が彼の腕に巻き付いた。確か白い蛇は神の使いじゃ…
「結愛ちゃん、ありがとう。ここまでのこのこ来てくれて。」
「え?」
瞬間、社から大きな影が覆い被さった。

「あはっ、本当に大好きだよ。バカで、ノロマな君が。」
 社の奥で咀嚼する下僕を撫でながら言う。嗚呼、本当に愛らしい。これだから人間と関わりを持つのは辞められない。
「次は誰と遊ぼうか。くく、楽しみで仕方がないよ。」

「結愛は本当に良い子で、悩みはなさそうに見えました。だからまさか失踪するなんて…え、特に親しい人?うーん…一番仲がよかったのは多分私だと思いますけどね。ここ一年くらい何回も一緒に近くのショッピングモールで遊んでますから。」