これまでずっと。 9作目
これまでずっと、冬の間はお家のなかにいた。
土と草のあったかいお布団。
冬だから、眠ってた。
冬になる前に、たくさん食べて、眠る。
いつも通り、起きた。
隣を見ると、お母さんはまだ寝ていた。
たいていいつもぼくの方が1日早く起きるから、今日はもう外に出て見た。
その時、冬の世界をはじめて見た。
目の前には何もなかった。
いつも遊んでる草叢も、ぼくの好きなお花も。
たんぽぽの綿毛みたいなふわふわが空から降っていて。
なんだろう?でも、知ってる。白、って色。
ぼくはその日は白色とたくさん遊んだ。
次の日お母さんと一緒に外に出たぼくが見た景色は、濃い緑色の夏だった。
いじょうきしょうが、起こっているみたいねとお母さんは言った。
ぼくたちは、
いつ眠って起きるのかわからなくなった。
<1件のLINE> #8作目
一件、送られてきた写真。
飼ってる、家でお留守番している、犬の写真。
もふもふしていて、まんまる大きな目で、丸いけど顎はすらっともしているような顔で、可愛くお座りして、こちらをじっと見つめている。いつものお気に入りの毛布と一緒に。
大好き。可愛い。
早く家に帰って、会いたいな。
<目が覚めると> 7作目
目が覚めると、生まれ変わっていた。
気分は非常に清々しく、昨日とは違う自分になっていた。
ベットから起き上がってカーテンを開けて、透き通る涼しい風と、あたたかい光を浴びる。
生まれ変わったことを祝福してくれてるみたい、と呟いてみる。
家を出る支度をして、
きちんと朝ごはんを作って、食べる。
大丈夫かな?格好はおかしくない?
いつもと同じリュックサックに、お気に入りの靴。
鏡に映る、昨日と同じの自分。
でも、確実に生まれ変わった自分。
勝手に落ち込んで、傷ついて、傷つけて、溺れそうで、優しくなろうと決めた自分。
踏み出せなかったけれど、昨日までとは少し違う道を歩いてみよう、と思う自分。
自分のペースでできること、やらなければいけないことをやろう、と思う自分。
同じ自分だった、でも同時に違う自分でもあった。
目が覚めると、生まれ変わっていた。
私の当たり前。 6作目
「起立性調節障害です。」
そう診断された、中学時代。
自分は吸血鬼なのではないか?と思うほどに朝、光が眩しくて眩しくて。 光を浴びたくない。布団から出たくない。怖い。人に会いたくない。それでも、こんなので挫けてたら生きていけない。休んじゃだめだ と思って毎日休まず、学校に行って勉強した。
心療内科も、内科も効果はなかった。
大人になれば、治ると思っていた。
けれど、高校生になっても治らない。
症状はどんどん悪化するばかりで、
影が気持ちに纏わりついて、
自分の意思で動いているのかどうかもわからない。
ぼんやりとして言葉が絡まって出てこなくなった。
視界が霞んで、真っ直ぐ相手を見れなくなった。
これが私の当たり前だった。みんなもこれが普通なんだ、と思っていた。自分だけ、うまくできていないんだと。
高校卒業。2月だった。
大学が始まるまで、あと1ヶ月半。
このままじゃ、だめだ。18歳、成人なのに情けなさすぎる。治したい。いや、治す。決めた。
泣きじゃくって親と相談して、ダメ元で接骨院に通い始めた。
そうしたら、みるみるうちに朝の光が和らいだ。
改善された。治った、訳ではなかった。
この先も、きっと治らない。でも、
当たり前が、当たり前じゃなかったことに気がついた。
視界が、霞みつつも光がみえた。
人間だと思えた。
街の明かり。5作目
夜の静かな時間。ひとりだけの時間。
横たわっていると
窓の外に、街の明かりがひらひらと見える。
明かりの数だけ、人がいる。生活がある。
私と同じことを考えている人が、
同じことをしている人が、
私の、いわゆる運命の人とかいう人が、
この無数の街の明かりの中に存在しているのかな。